人は悪魔に熱狂する ―悪と欲望の行動経済学―

2020年12月14日

  こんにちは。今回は、松本健太郎氏によって綴られた「人は悪魔に熱狂するー悪と欲望の行動経済学-」という本を紹介します。

 本書では、人々が何かしら行動をする際に発生する無意識の領域に焦点を当てています。統計やデータでは表すことが出来ない消費者行動や、想定外市場の動向について紐解き、行動心理学の視点からビジネスを行うことの大切さが述べています。

 マーケティングに興味がある学生、市場調査に関わる何かを行っている方、にお勧めです。専門用語でない表現、わかりやすく砕かれた事例で述べられているので、わかりやすい一冊になっています。是非、ご一読を。

 

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人は悪魔に熱狂する―悪と欲望の行動経済学

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目次 

第1章 人は「強欲」な存在である

第2章 「怒り」が人を動かす

第3章 人は「怠惰」な動物である

第4章 言葉は人を騙す

第5章 嘘は真実より美しい

第6章 人は「矛盾」に満ちている

 

第1章 人は「強欲」な存在である

 本書では、ヒット商品には必ず”悪”の顔があると主張している。例えば、「食べ放題」が人気な背景には、人々の欲望を満たす様々なものが備わっているからである。和やかな雰囲気に囲まれ自分の食べたいものだけを何度も食べられるので、幸せな気持ちになる。それに周囲を見渡しても、他のお客さんも同じように幸せそうに見えるという「気分一致効果」が生まれ、「自己と他社の双方の欲望」満たされる。このような幸福感を味わうために「食べ放題」に足を運ぶのは理解できよう。また、元を取ろうとする行動が多くみられる。これは「サンクコストの誤謬」である。自分が投資したコストのうち、撤退・中止しても戻ってこない分を指しており、サンクコストの誤謬を小さくするために人々は元を取ろうという「欲望」が生まれ、苦しくなるまで食べてしまうのだ。

 また、吉野家を復活させた「悪魔のメニューである超特盛」も人々の強欲さをうまく活用している。並盛2つ分の重量なのだが、値段を比較すると、超特盛を注文するより、並盛2つの方が安いのだ。それでも超特盛がバカ売れする理由には、人々の「純粋に並盛2つを注文することが恥ずかしいが、たくさん食べたい」という欲望が働くからである。このように人々の行動には様々な種類の「欲望」が含まれている。そして、この心理的効果は理論やデータ・統計で表すことが難しい。そのような人々の「欲望」の存在をこの章では伝えている。

 

第2章 「怒り」が人を動かす

 第2章では、「怒り」が人々の行動を後押しするということを述べている。例えば東京医科大学の「入試において女子を一律で減点していた」という事実が判明した際、「男女差別」というワードが世間の怒りをかった。大学入試の結果において不適切な得点調整が行われていたり、また、女子学生の割合を3割以下に抑えるなどの処置をとっていた大学が計10校明らかになった。しかし、当事者である医師の反応を見ると「やむを得ない」という反応が65%もあったのだ。その最大の理由として、「女性医師の離職問題」が挙げられていた。事実、医師という国家資格保有者の数には限度があり、転職市場からの欠員補充をするのは難しい。そんな、限られた定員の中で離職率の低い男性医師を重宝するのは理解できる。だが、それを理由に入試の不正操作を行ってよいのだろうか。

 平均的な医師の勤務時間を見ると、いわゆる過労死ライン(月80時間の残業)を超えて勤務している医師は女性では17.3%男性では27.2%もいる。この長時間勤務の最大の理由が「人手不足」なのだ。つまり、女性医師の産休・育休が現場で敬遠されるのには、「医師の人手不足」問題がまず大前提として存在しているのだ。この事実を理解すると、問題を解決するためには「女子学生を減点して男性医師を増やす」という結論にはならず、医師の絶対数を増やし、業務効率によって無駄な作業を省いていくべきなのだ。問題の表面だけを解決し、根本の問題をねじ伏せているのは様々な分野でも存在するだろう。

 しかし、このような事実が明らかになり、人々の矛盾に対する「怒り」という意思表示こそが、無意識のうちに作り上げられた、偏り間違った考え方の存在を気づかせ、長年の積弊を変えていく巨大なパワーを生み出していくきっかけになるのだ。

 

第3章 人は「怠惰」な動物である

 人間には「サボりたい」というダークサイドを持っている。例えば3種の神器が大ヒットした背景には「利便性」という一面が大きく関係している。技術革新のすべてが当てはまるわけではないが、「怠惰」はイノベーションを大きく後押ししている。IT化が進んでいることも、テレワークが進んでいることも、家事のアウトソーシングが進んでいることも、作業の効率化という人間の怠惰な部分を補うものであるといえよう。このような人間の心理は少なからず、消費行動に反映されているのだ。

 

第4章 言葉は人を騙す

 今日、「SDGs」という言葉がブームになっている。多くの投資家もSDGsに力を入れている企業に投資してきている傾向が見られる。しかし、現実はどうだろうか。世界経済フォーラムによれば「SDGs」という言葉を聞いたことがある割合は49%と28か国中最下位で、よく知っていると答えた人はわずか8%と同じく28か国中最下位だった。数字を見る限り、日本の一般消費者の間で「SDGs」が盛り上がっているとは言い難い。このように、「SDGs」のような、深刻な世界の問題を解決するための素晴らしいテーマであっても人々の行動につながらないのが現実である。

 その背景を紐解くのが行動経済学である。人は「理論」だけでなく「感情」と「心」を動かされなければ行動にうつさないのだ。つまり、この章で述べられているのは、「言葉」や「スローガン」は人々の「心」や「感情」を強く揺さぶる「極論」の存在だ。その代表例が「炎上」や「煽り」だ。特に情報に弱い人々はこれらの煽り文句をうのみにしてしまう傾向が高い。要するに、物事の本質をとらえ客観的に判断しなければ、根も葉もない情報に翻弄されてしまうだろう。

 

第5章 嘘は真実より美しい

 嘘は真実よりも美しいという言葉の背景には、「信じたいもの」を信じ込みやすい人々の心理が大きくかかわっている。例えば「血液クレンジング」や「水素水」「EM菌」「マイナスイオン」など効果が検証できないものや科学的に根拠がないものが世の中にはまだまだたくさん存在している。科学的根拠のないこれらの商品であっても、使用する人々の思い込みや、偶然が重なったために引き起こした結果が、商品価値を生み出しているのだ。つまり、第5章では、「物事の一面しかとらえずに判断してはいけない」ということだ。正しいか間違いか、いいか悪いかという単純な判断基準だけでなく、物事の背景にある「根拠」「価値の存在」をも判断軸にしていかなければ、偏った物事の判断基準をもってしまうということを警告している。

 

第6章 人は「矛盾」に満ちている

 この章で述べられている「矛盾」は「感情」と「勘定」の矛盾である。例えば、新型コロナウイルスが引き起こしている現状を例に挙げるとわかりやすい。新型コロナウイルスに感染したくないという「感情」意識がある中、経済を回さないと自分たちの首を絞めるという「勘定」意識が存在していたり、また、「人の命のため」という大義名分によって人種差別が正当化されたり、「デマの拡散をふせぎたい」という「善意」によって逆にデマが拡散したりなど、今回のコロナウイルスの影響をうけて、人間の二面性が曝け出された。

 つまり、筆者は本書全体で、人間を理屈や損得勘定だけで判断してはいけないということを主張している。つまり、人間は「勘定」と「感情」の2つをもとに行動しており、これらの2つが矛盾が「悪」と「欲望」を生み出し、損得・善悪だけでは人々の行動は測れないのだ。

 

まとめると

このような人間の「煩悩」や「悪」「欲望」「矛盾」の存在を本書では述べてある。

 

参考文献

松本健太郎 (2020 毎日新聞出版)『人は悪魔に熱狂するー悪と欲望の行動経済学―』 

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