イやな記憶はなぜ消えないのか

 

12月13日

今回は「なぜイやな記憶は消えないのか」という榎本博明さんの本を紹介します。

この本では嫌な記憶から生まれるネガティブな感情とどう向き合い、私たちが前向きに明日を生きていけるような記憶健康法が述べられています。

 

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なぜイやな記憶は消えないのか

目次

第1章 記憶を制する者は人生を制する

第2章 「そのままの自分」で良いわけがない

第3章 記憶は「今の自分」を映し出す

第4章 前向きになるための記憶健康法

第5章 心のエネルギーが湧いてくる記憶

第6章 記憶の貯蓄と塗り替え

 

第1章 記憶を制する者は人生を制する

第1章では記憶することの大切さが述べられている。事実、記憶は私たちの生活に潤いを与えてくれる重要な役割を担っている。過去を懐かしんだり、未来を夢見たりできるのも記憶のおかげである。本や映画を見て懐かしい思いになったり、感動し涙を流すことも自分の過去の経験と重ね合わせることができるからなのである。

そこで、過去の記憶が前向きなものに整理されていない人は、過去を懐かしむことができないだけでなく、未来を夢見ることもできない。過去の栄光を自慢げに話し、誇り高く生きている人もいれば、過去の栄光を投げやりに自嘲気味に語す人もいる。また、貧しい環境で育っていても、その環境を反面教師にひたむきに努力する人もいれば、どうせ自分なんかと、夢見ることをあきらめる人もいる。このように、記憶の中の過去は主観的に色付けられており、幸福感もも不幸感も主観的世界によって左右されているのだ。つまり、いかに記憶を良い方向に整理し前向きに生きていくのかが大きな別れ道なのである。

 

第2章 「そのままの自分」で良いわけがない

第2章では、過去の記憶をネガティブにとらえてしまう自分を変える必要性を訴えている。これまでの人生、思い通りにならないと嘆く人がいる。このような人達はイやな記憶をいつの間にか反芻し、全てにおいて消極的になってしまっているのだという。そこで大切なのが、「過去に蓋をするのではなく、過去を塗り替える」ことだ。自分の過去とは、自分の成立基盤であり、今の自分の成り立ちを説明する材料が詰まっており、自分の原点でもある。それに蓋をして、自分の過去の記憶との触れ合いを断ち切ってしまうと、自分自身を見失うことにつながりかねない。そこで考えるべきことは、過去に蓋をするのではなく、過去についての記憶を塗り替えることなのだ。以下第4章でふれる。

 

第3章 記憶は「今の自分」を映し出す

記憶は「今の自分」によって映し出され方が変わってくる。つまり、私たちが生きているのは「事実の世界」ではなく「意味の世界」なのである。私たちが事実を経験するとき、実は事実そのものではなく、事実の持つ意味を経験しているのだ。似たような境遇にあっても、前向きな気持ちで日々過ごしている人もいれば、愚痴っぽくうつうつとした日々を送る人もいる。境遇そのものではなく、自分の境遇をどう意味づけるかが問題なのであるのだ。私たちは現実そのものを生きていくのではなく、現実が自分にとってもつ意味の世界を生きている。つまり、前向きな姿勢を持ている人(ポジティブな今の自分)であれば、物事をプラスにとらえ前向きに生きることができ、自分なんかという姿勢を持ていいる人(ネガティブな今の自分)はイやな記憶がうまく整理できず、過去のトラウマや消極的な自分に、ネガティブ志向の負の連鎖が生み出されてしまうのだ。

 

第4章 前向きになるための記憶健康法

前向きになるために物事の受け止め方を変えていく必要性を述べている。何かネガティブな結果が出た時やネガティブな状況に陥ったとき、落胆するか自己嫌悪するか、何とかなると楽観するか、もっと頑張らねばと自分を奮い立たせるか、どれが正解ということはない。しかし、このような認知に対する自分の記憶の位置づけが気分に影響し、またその後の行動に影響する。大切なのは、後ろ向きの意味づけをするのではなく、前向きの意味づけをすることなのだ。(省略)自分の過去の記憶というのは、現在の心理状態によって構成されたり、書き直されたりするために、記憶のアクセス方法を調整することが薦められている。ネガティブな気分の時はネガティブな記憶が引き出されやすい。ゆえにネガティブな気分のときは過去を振り返らないようにすべきなのだ。だがそうは言っても、いつの間にか過去を振り返って嫌なことを思い出してしまうのが常だ。ふと気がつくと嫌な記憶を思い出し、反芻している。そんな自分を見つけたら即刻別のことに目を向け、別のことに没頭するのが良い。例えば、軽い運動をする。料理をする。本を読む。スポーツを観戦する。映画やドラマを見る。友達や家族と話す。なんでも良いから行動することで過去の迷走を断ち切るのだ。ネガティブな気分のときは、過去を振り返らずに、目の前の現実にどっぷりと浸かり、そして、気分が良い時に過去を振り返る。そうすれば、ポジティブな記憶が引き出されやすい。それによってますます気分が良くなる。そこでまた過去を振り返るとポジティブな記憶が引き出される。こうしてポジティブな記憶の好循環を創っていくのだ。

 

第5章 心のエネルギーが湧いてくる記憶

前述したように記憶と気分の相互作用を前提にすると、気分良く快適な毎日を送るためには心のエネルギーが湧いてくるような記憶とのふれあいを心がけることが大切だとわかる。そこで、筆者は「懐かしいきおくを拾い集めること」「故郷を歩いてみること」「懐かしい場所を訪ねること」「アルバムを開いてみること」「想いでの品をとりだしてみること」「日記を紐解いていくこと」「昔読んだ本を読んでみること」「昔聴いた曲を聴いてみること」「旧友と語りあいの場を持つこと」など心のエネルギーが湧いてくるような記憶を思い出す行動を勧めている。

 

第6章 記憶の貯蓄と塗り替え

 本書で述べていることをまとめると、人生に納得し満足するかは、出会った幸福の数や不運・困難の数で決まるのではなく、それらに対する主観的な評価で決まるということだ。様々な困難な事態を経験しないことが納得のいく人生につながり、前向きに生きる姿勢につながるというわけではない。人生を前向きに生きている人には、記憶健康法の視点から見て興味深い共通点がある。それは、過去を振り返る際に、かつて身に降りかかった困難に対して、「今の自分にとって糧になっている」といった意味付けをしている。困難な状況の中でもネガティブな出来事の中にポジティブな意味を見言い出すことが人生を前向きに生きることができるのだ。