システム・シンキング入門

 

11月30日

 

今回は2006年に出版されたシステム・シンキングという本をまとめます。

この本では商売・ビジネスにおいて、悪循環を生み出すパターンを捕まえるための5つの「かたち」と対処法が述べられています。

f:id:doriko-saito:20201201131015j:plain

システム・シンキング入門

はじめに、悪循環システムの5つの「かたち」には、

1.応急処置の失敗

2.問題の転嫁

3.成功が成功を生む

4.エスカレーション

5.成功の限界

 

この5つを1つずつ例を挙げ読み解き、そして最終的には「システムシンキングとは何か」、私たちが商売・ビジネスをする際だけでなく、日常的に「どうやって物事を考えていけばより良い意思決定ができるのか」を解いていこうと思います。

 

1.応急処置の失敗

私たちは緊急の問題や課題に直面すると、当面の「火消し」作業に注力する。しかし、そうして対処療法的な「火消し」の結果、一時的に問題は沈静化するように見えるが、意図しなかった結果が生まれることもある。その意図しなかった結果が問題をかえって悪化させることがあるのだ。

(事例)企業合併後の人事一掃の失敗

A社B社は、ある業界でシェア2位3位のポジションにあった。両社はとってきた戦略も文化も随分違っていたが、業界ナンバー1を目指すべくA社がB社を吸収する形で合併した。A社はここ最近の成長が目覚ましく、財務状況も素晴らしい会社でした。しかし、個人の事業成績やノルマが厳しく、離職率も業界平均を上回っていた。一方、B社は対照的に業界老舗企業で長年にわたり安定成長してきた。意思決定においては話し合いを重ね、社員を大切にする企業文化をもっていた。合併吸収後、A社の厳しいノルマに元B社の社員は衝撃受けた。会社の事業は順調に推移しはじめたもののA社の文化についていけない元B社の社員が大量に退社する事態が起こり、B社から来た経営幹部の中にはA社の管理スタイルに懸念を表す人々が現れてきた。こうした状況に対しA社出身者を中心とする経営トップはA社に不満を持つ経営幹部を更送する人事一掃策をとった。A社の不満分子がいなくなったことで、一時的にはA社の管理スタイルが定着したように見えた。しかし、それもつかの間、更送された元B社の部下たちが一斉に退職する事態があ起きてしまい、B社から来た優秀な人材はほとんどいなくなってしまったという事態に陥った。

 

2.問題の転嫁

「問題の転嫁」というのは応急処置から生まれる副作用が障害となって、根本的な解決策がとられなくなる様子が示されている。「応急処置により生まれる副作用の結果、根本的な解決策がとられなくなる。その結果、問題が沈静化しないため、また応急処置がとられる」という悪循環を示している。

(事例)品質とクレーム対応

A社では自社製品の品質問題が多発していた。その結果、品質保証部門や生産部門の人々はクレーム対応に膨大な時間をとられ疲弊しきっていた。根本的な解決策である「生産手順の変更」が必須であることを誰もが分かっていたものの、クレーム対応に時間をとられ、解決のための十分な時間を割くことができなかった。その結果、クレームは一時的には沈静化するものの品質問題は再度発生し、クレーム対応に時間がとられるという悪純化から抜け出せない状態が続いた。

 

このように問題を「先送り」にされる状況が生み出される理由は、限りある時間を「生産手順の変更の検討かクレーム対応か」の天秤にかけられたときに、既存の策が優先されやすいということ、そして、代替策の結果はすぐに表れるわけではないため、応急処置の即効性のほうが魅力的に映るためである。

 

3.成功が成功を生む

このケースは「問題の転嫁」のような「問題の先送り」という対処法の失敗とは違い、本来は達成したい成功を自ら先送りするような状況を示している。

(事例)

A商品とB商品が存在する。A商品はその企業にとって長年の大ヒット商品で、売り上げと利益の大半はその商品が占めていた。しかし、将来の経営において、その商品1本で戦っていくことに危機感を抱いたトップは新規商品としてB商品を開発し、売り出した。もちろん、会社の顔であるようなA商品に新米のB商品が、短期間で売上や利益率かなうはずがない。その結果、「AとBのどちらに追加投資や資源配分するべきか」意思決定を求められると、大抵は成功しているA商品のほうに多くの投資や資源が割り当てられる。つまり、現在成功しているものの方に資源を傾斜分配するようになり、A商品は潤沢な投資を受け、B商品にはそれなりの資源しか分配されない仕組みが作られ、成功状態はA商品に比べて見劣りするようになることは容易に想像できる。つまり、はじめに成功の程度が大きかったA商品は、より大きな成功を手に入れ、その逆に、B商品は資源が割り振られない状況が加速し、成功からより遠ざかってしまうのだ。

 

4.エスカレーション

エスカレーション」とはライバル関係にある2者の双方の行為が脅威となって増幅していくシステムのこと。事例を読んでもらいたい。

(事例)

米国とソ連冷戦中に軍備を拡大する競争をしていた。軍備を増やすことで相手国へ力を見せつけるという牽制の応酬は拡大を続け、実際に戦争の一歩手前まで行ったこともあった。このように、2つのプレイヤーがにらみ合う状況下で同じ戦略を続けるかたちは、意図的に止めない限り永遠に循環し、泥沼化の一途をたどっていく。

 

5.成功の限界

「成功が成功を生む」や「エスカレーション」はシステムの動きが一つの方向がいつの方向に拡大していく様子を示していたが、「成功の限界」は、継続してくように見えた成功や拡大が止まってしまう姿を表している。

(事例)

東京近郊にEフィットネスクラブが出店した。それまで近くにそのような施設がなかったために近隣住民は喜んだ。駅前では入会キャンペーンのチラシが配られ多くの住民が会員となった。オープン当初はクラブ施設の混雑はそてほどでもなかったのですが、2か月、3か月と経つうちにロッカーやジムが混み合うようになった。入会キャンペーンは終わったものの新規入会者の数は増え続け、次第に会員から不満の声が出始めた。1年後にもっと大きなフィットネスクラブができるとEフィットネスクラブの会員たちの多くはそちらに移っていった。

 

この5つの「かたち」についての「共通点」を見ると、結局、以下の3パターンにまとまる。

・悪化パターン―問題を解決するための取り組みがバランス・フィードバック・ループを働かせたものの、結果的に、拡張フィードバック・ループが働き問題が解消されない。

・停滞パターン―事態をより良い方向に加速させる目的で拡張フィードバック・ループを働かせたものの結果的にバランス・フィードバック。ループが働き加速が止まってしまう。

・悪影響パターン―事態をより良い方向に加速させる目的で拡張フィードバック・ループを働かせ、この目的は達成したものの、他の拡張フィードバック・ループが働き、別の悪影響が出てしまう。

※バランス・フィードバック・ループとは、物事の循環において、反対の動きをするものがあると、そのループは一循すると方向が反対になること】

※拡張フィードバック・ループとはそれぞれの要素の変化方向を同じ方向に加速し続けること】

 

システム・シンキングで見えてくること

この本で伝えたいことは「ある状況では直感的に理解できるパターンも、別の状況では気付かなかったり、間違った行動をすることがありうる」という私たちの認知限界を理解し、そのような状況下でも、問題の構成を正しく捉えられるようにすることだ。

先ほど述べた事例の対処法は以下の4つにまとめられる。

①結果の近くで原因を探すな

②行動や意思決定の中期的インパクトを考えよ

ボトルネックを探せ

④意思決定を切り離せ

 

業界の構造は時間とともに目まぐるしく変化している。そのような外部環境にアンテナを張り、外部環境の変化の着地点を推察することを忘れてはいけない。そして、戦略はシステム全体の視点で考え、直感的に行動するのではなく、「補完」や「介入」というような策をうまく活用することで、「好循環」を拡大したり「悪循環」を断ち切ったりできる。また、「ユニークな商品を生み出す会社にユニークな発想を持つ学生が集まり、創造性を育む社風からさらなるユニークな商品の開発が進む。」というような、強みを一貫性のある「かたち」にすることで、さらなる好循環を生むことができるのだ。

 

まとめ ~この本の本質~

 

システムシンキングのようなシステム的視点を持つ必要があるといっても最初から見通せるわけではない。現実の事象や反応から推論し、未来のことを理解しようとする姿勢、自分の考え方の前提を問いただす姿勢があればシステム構造の理解も進めやすくなるだろう。そうしていけば、意思決定の影響を「見通せる」ようになる。次第に「フィードバック」から「フィードフォワード」ができるようになるだろう。まずは、「時間」やフィードバックの概念をしっかりと認識し、客観的に全体を見るように心がけていれば「木を見つつ森を見る」ことができるようになる。これこそがシステム・シンキングの本質である。

 

 

参考文献:西村行功(2006)『システム・シンキング入門』日本経済新聞社