父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。

 

2月2日

 こんにちは。今回はヤニス • バルファキス氏著の「父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話」という本を紹介していきます。私自身、久しぶりに、こんなにも目から鱗で、心に響く本に出会うことができました。

 本書では、今の世界と経済の本質を、経済学と政治学の点から、解説している。どうして格差は生まれるのか、どうして政府と銀行の関係はズブズブなのか、どうして資本主義が正しいと言われるのか、そのほかにも、様々な物事の背景や起源、また、これからの経済が向かう先について、シンプルにわかりやすく述べられているます。

 本当におすすめの一冊です。

 是非、手に取って読んでみてください。

目次

第一章 なぜ、こんなにも「格差」があるのか

第二章 市場社会の誕生

第三章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ

第四章 「金融」の黒魔術

第五章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界

第六章 恐るべき「機械」の呪い

第七章 誰にも理解されない「新しいお金」

第八章 人は地球の「ウイルス」か?

 

第一章 なぜ、こんなにも「格差」があるのか

 どうして世の中に格差があるのでしょうか。

そして、この格差はどうしてなくならないのでしょうか?

 この疑問について、少し変わった切り口から紐解いていく。

 問いをこう変換しよう。

「なぜ植民地は外国に侵略されてしまったのだろうか」

 例として、アボリジニを挙げる。ヨーロッパから来た侵略者は、200年続いたアボリジニの素晴らしい文化を踏みにじり、長きにわたって暴力と略奪を繰り返してきた。そのせいで、今でもアボリジニはありえないほどの貧困の中で暮らしている。

 でも、こう考えたことはあるだろうか?「どうしてアボリジニはヨーロッパを侵略しなかったのだろうか」と。注意深く考えなければ、ヨーロッパ人は賢くて力があったから、とか、アボリジニは、いい人たちだっだから侵略しなかったとか、そういう答えを受け入れるかもしれない。しかし、歴史の中で迫害された人々を、賢くないから犠牲になったのだと少しでも思ったのなら、その考えは捨てた方がいいだろう。

 

 こんな話を聞いたことがないだろうか?「貧しい国は経済が弱いから貧しい」と。

でも、豊かな国でも貧しい人はいる。なぜ、世界には貧しい人がいる一方で、途方もない金持ちが存在するのだろうか?

 この答えは全て経済まつわることだ。その経済と関係深いのが市場だ。こういう言葉を聞くとその話はいいやと耳を塞いでしまう人が多いだろう。しかし、その行為は未来に背を向けていることと同じだ。目を向けてほしい。

 

 経済と市場は同じものだと思っている人は、多いだろうが実は違う。市場とは、ものの交換を行う場所をさしている。そして、経済というものが成り立つためには、市場があればいいというわけではない。先に答えを言おう。経済が成り立つために市場に必要なもの、それは「余剰」だ。

 

ここで注目してもらいたいことが2つある。

 まず、狩りや漁や、自然の木の実や野菜の収穫には余剰を生み出さないということ。狩人がどんなに達人でも余剰は生まれない。なぜなら、とうもろこしや米のような保存ができるものと違って、うさぎや魚やバナナは、すぐに腐れてしまうからだ。

 次に、農作物の余剰が人類を永遠に変えるような偉大な制度を生み出したということ。それが文字、債務、通貨、国家、軍隊、宗教などだ。文字は余剰を記録するものとして生まれ、債務、通貨は余剰を記録する媒体として、国家はそれを管理する支配者として誕生した。そして、宗教は、その支配者が支配者であることを正当化するための思想として生まれたのだ。

 

 話を戻そう。「なぜアボリジニは、イギリスを侵略しなかったのか」

 その答えは、オーストラリアで余剰がうまれなかったからだ。オーストラリアでは自然の食べ物に事欠くことがなかった。300万人が、ヨーロッパ並みの広さの国土に自然と共生し人々は土地の恵みを独り占めできた。だから、農耕技術を発明しなくても生きていけたし、余剰を溜め込む必要がなかった。テクノロジーがなくても豊かな暮らしができたのだ。

 逆に、気候に恵まれないイギリスでは、大量に作物の余剰を貯めないと、生ていけなかった。航海技術や生物兵器も余剰から生み出された。そうやって、はるばるオーストラリアまでたどり着いたイギリス人にアボリジニが、かなうはずがなかったのだ。

 つまり、格差が生まれたのも、無くならないのも「経済」が原因する。この経済の仕組みについて以下、述べていこう。

 

第二章 市場社会の誕生

 市場社会が成り立つためには以下の3要素が必要になる。

 ・自然から採取する原材料(鉱石や石炭)、それを加工する道具や機械、それらを置く建物や織そしてインフラ一式。これらすべてが生産手段である「資本財」

 ・「土地」または「空間」生産が行われる場所

 ・製品に命を吹き込む「労働者」 

 

 かつての、大昔の社会では、これら生産に必要な要素は商品ではなかった。「グッズ」だった。わかりやすく説明しよう。「労働者」の場合、昔であれば、おそらく今よりも必死に働いていた。封建領主に奴隷が仕えていた時代、奴隷らは汗水たらして働いていたが、自分の労働力を売ることなど考えもしなかあった。主人は収穫の大部分を、当たり前化のように独り占めし、労働者を暴力で言いなりにすることも少なくなかった。また、「土地」も商品ではなかった。領主は、先祖代々の土地を売ることなど考えもしなかったし、土地を売ることなど許されないことだと考えていたのだ。

 

 しかし、あることをきっかけに、生産活動のほとんどが、市場を通して行われるようになった。その時に、生産の3要素は商品になり交換価値を持つようになった。「労働者」は自由の身となり、お金と引き換えに労働力を提供するようになり、「生産手段」の道具は専門の職人によって販売されるようになった。また、「土地」も不動産市場で売買されるようになった。

 

 では、この大転換はどのように起きたのだろうか?

 

 世界が変わり始めたきっかけは、ヨーロッパで造船が発達し、羅針盤が発明され、航海手段が改善されたことだ。それがグローバル化につながった。ヨーロッパの国々は羊毛をつき船積みし、それを中国で絹に交換し、絹を日本で刀に交換し、インドで刀を香辛料に交換し母国に戻る。そうすると、その香辛料で、最初に船積みした何倍もの羊毛が手に入る。そうした流れの中で、これら商品を売買する商人は大金持ちになった。そんな中、領主たちは、社会階層の低い商人や船乗りが莫大な富を手に入れることに憤慨し、自分たちの地位や資産が小さく感じられることが気に入らなかった。そこで、とんでもないことを考えるようになった。「いっそのこと仲間になったらどうだろうか」と。農奴が作る玉ねぎやビーツはグローバル市場で価値はなく、小汚い農奴を追払い、羊を飼い、世界で売れる羊毛を作ろうと。(これが人類稀に見る残酷な改革「囲い込み」改革だ。)

そうすることで、領主は莫大な富を獲得するため、「土地」を商品を生み出すため要素としたのだ。その結果、追い出された農奴は、生き抜くための手段として、自分自身、つまり、「労働力」を売るようになったのだ。

  

 しかし、ここで「偉大なる矛盾」が生まれた。土地と労働とその他の「グッズ」が、商品になることで、それまで不正義と卑劣な扱いに苦しんでいた農奴は解放された。新しい自由の概念が生まれた。しかし、その一方で、土地の賃料の取り立てや、借金、劣悪な労働環境による病気など、新しい形の苦痛や貧困が生まれた。

 

 産業革命によるグローバル化は、「思いもよらぬほどの莫大な富」と「言葉にできないほどの苦痛」が共存する世界が出来上がった。農業革命で生まれた格差は、産業革命で、ものすごい規模に拡大してしまった。市場のある社会が「市場社会」に変わったことでお金が手段から目的になってしまったのだ。それは、人間が利益を追求するようになったから。たしかに誰にでも欲はある。だが、欲望と利益の追求は全くの別物であるこいうことは、歴史と現在の考え方の違いを見れば明らかだ。

 

第三章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ

 この章では全ての富が借金から生まれていることない説明をしている。まず、第1章で述べたように、経済が存在するための前提条件として「余剰」が必要だ。そして、それは、封建時代、以下のような流れで機能していた。

 生産→分配→債務•責務だ。

1. 農奴が土地を耕し作物を作る(生産)

2. そこから領主が無理やり年貢を納めさせた(分配)

3. 領主は自分が必要とする以外の余った作物を売って金を稼ぎ、その金でモノを買ったり支払いをしたりした(債務•債権)

 しかし、市場社会が成り立つと、「大転換」が起き、生産後に余剰を分配するのではなく、生産前に分配が始まったのだ。

 

 もっとわかりやすく説明しよう。イギリスで農奴が土地を追われ、羊に置き換えられた時、追い出された農奴はどうしただろうか?

 その後、領主から土地を借り、羊毛や作物の生産の管理をし、それらを売ってお金にし、領主に土地の賃料を払い、働き手たちに賃金を払うようになった。つまり、小規模ながら、事業を経営するようになったのだ。

 しかし、事業を起こすには資金が必要だ。賃金を払い、作物の種を買い、領主に地代を払わなければならない。つまり、作物ができる前にお金が必要になる。しかし、起業家になった農奴たちは、そんなお金がなかったために借りるしかなかった。つまり、借金をしないといけなかったのだ。地代も原料や道具の値段も生産を始める前からわかっている。将来の収入の分配はあらかじめわかっているのだ。事前に分からないのは、起業家自身のとりわけだけだ。ここで、分配が生産に先立つようになった。このように大転換が起きた。

 こうして、借金が生産プロセスに欠かせない潤滑油になったのだ。利益自体が目的になったのも、この時だ。利益が出なければ起業家たちは生き延びることはできないからだ。

 

第四章 「金融」の黒魔術

 金融機関の役割とはなんだろうか。

 銀行は、貯金があってもすぐに使う予定のない人と、貯金がなくお金を借りる必要がある人の間に立って両者を結びつける。預金者からお金を預かり、借り手にそのお金を貸し付けて利子を取り、預金者には少しの利子を払い、その差で儲ける。こういった仕組みだった。だが今は違う。

 ひと昔まえなら、借り手がきちんと返済できるか確信してではないと、お金を貸さなかった。しかし、1920年頃から金融業の歯車が狂った。一つ目は、産業革命によって起業家が増加し、貸し付ける借金の額が爆発的に増大したこと。そして二つ目が、銀行が被害を被らないための方法として、リスクを分配するために個人投資家に販売するようになったことだ。このように、銀行のみで被害を被らなくなったために、現在は、より多くの人に、より多くの金を貸すようになった。お金を貸すことで経済に回るお金が多くなり、銀行の懐も潤うからだ。つまり、今や銀行は、使用者にとっての「金融ツアーガイド」なのだ。

 

 しかし、どこにでも落とし穴というものは存在する。

 銀行は、借り手の未来からお金を引っ張ってくる(借金を作らせる)ほど、投資家にますますのローンを売りつけることができ、取り扱う、そして、貸し手と借り手間で生まれる、利ざやが増えれば、増えるほど銀行の利益は増大する。

 だが、銀行が未来から引っ張ってくるお金が増えれば触れるほど、未来を読み間違う可能性が高まる。つまり、すべての人にお金を貸したとしても、すべての人がお金を返せるわけではなく、借金を返せないかもしれない借り手の母体数が必然的に増えるのだ。

 銀行が大量に貸し付けを行うことで、経済は循環し、市場社会は拡大する。そして、安定しているように見える社会で銀行はよりお金を貸し出してしまう。

 だが、ある地点で社会全体が借金漬けになり、経済の成長がそれに追いつかず、利益を出しても、返済しきれない状態が来る。ここで未来から引っ張ってきた莫大な価値が実現できないとわかった時、経済は破綻する。これが「金融の黒魔術」だ。

 (事実、約10年前の「ギリシャ危機」にも金融の黒魔術は大きく関係している。)

 

 つまり、金融機関は経済の潤滑油である借金を生み出す必要不可欠な機関であるとともに、経済を破綻の淵に追いやる恐ろしい機関でもあるのだ。

 

第五章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界 (中まとめ)

 これまでに述べた、領主の囲い込みや金融機関の貸し出しなど、人は誰しも自分と他人の行動を振り返り、他人の心を推し量ってその行動を予測する。どんなに賢く、どんなに知恵があっても、自分を守りたいという短期的な衝動に勝てない。そんな不合理で矛盾した人間の振る舞いと経済という機会をスムーズに動かすためには、18世紀にイギリスで起きた「大転換」と同じぐらいの大改革が必要だ。

 今、私たちはそんな大転換の中にいる。デジタル化と人工知能による機械化と自動化が社会を根本からかえている。この変化によって、産業革命で生まれた大きな格差を広げてしまうのだろうか。縮められるのだろうか。

それは、これからの私たちの舵きりにかかっている。

 

第六章 恐るべき「機械」の呪い

 第三章では、利益について、それ自体が目的になっていく過程を説明した。起業家は生産を始める前に借金をせざるを得ず、生き延びるために利益が必要になった。そして、利益を生み出すためには、他の起業家と競争して顧客を獲得しなければならない。顧客を獲得するためには、製品の値段を下げなければならない。そして値段を下げるには、同じ賃金でより多くの製品を生産し続けなければならない。機械工学やテクノロジーの発明がこの生存競争に役立つとわかるとすぐに、こうしたテクノロジーは生産に利用されるようになった。

 こうして生み出されたテクノロジーは機械としてさまざまな場所で導入され、人類は大量の機械奴隷を朝手に入れることができた。

 だが、このように大量の機械奴隷を投入することでこれまで担ってきた人間の役割がなくなってしまう。

 

 では、それに代わるような、人間にしかできない仕事が新しく生まれるだろうか?

 

 そこが問題だ。もし、社会の仕組みがこれまでと変わらず、機械が生み出す利益を一握りの人々が独占し続けるとすれば、新しい仕事は生まれない。経営者たちの目標は、誰も働かずに済むような社会を実現することでも、利益がどうでもよくなる社会を実現することでもない。経営の夢は、どの企業よりも先に労働者を完全にロボットに置き換えて、利益と力を独占し、ライバル企業の労働者に自分たちの製品を売りつけることだ。巨大テクノロジー企業が世界を圧巻し、すべてデータがされ、人間とロボットが入り混じったアンドロイドの世界がもし仮に生まれてしまうとしたら、私たちの未来はどうなってしまうのだろうか?

 事実、良くも悪くも、テクノロジーが進化して人間の殆どの仕事ができるようなレプリカントが作られるのも時間の問題だろう。私たちがテクノロジーの進歩に反対しても問題は解決しない。テクノロジーイノベーションは、私たちを苦役から開放し、クリーンなエネルギーを生み出し、命を救う薬を作ってくれる。とてもありがたいものだ。しかし、ありがたいと思って機械に私たち人間が乗っ取られてしまうのはごめんだ。

 

 ここで、今ある現実の大きな2つの希望に目を向けてみる。それは「人間性の喪失や労働力の安売りに抗う無限の力が人間にはある」ということと、「災いと福はつね対となっているという経験的な知識」だ。経済が定期的に災厄に見舞われると、その度人間の労働力は回復する。倒産や経済危機によって少なくとも当分の間は人間の労働力は安くなり、生き残った企業は高価な新型のロボットではなく、失業者を受けいれるようになる。もちろん、人間らしい心と常識を取り戻すために、経済危機という犠牲が必要だなんておかしなことだ。だからこそ、これまでとは違う「大転換」が必要なのだ。賢く機会を使って労働がすべての人に恩恵をもたらすような大転換が。

 

 すべての人に恩恵をもたらす機械の使い方について、一つアイデアを挙げよう

 簡単に言うと、企業が所有する機械の一部をすべての人で共有し、その恩恵も共有するというやり方だ。富の集中が極まるた、大多数の人たちは、使えるお金が減り、ものが売れなくなる。だが、利益の一部が自動的に労働者の銀行口座に入るようになれば、需要と売り上げとか価格の悪循環がとまり、人類全体が機械労働の恩恵を受けられる。

  私たち人間はテクノロジーの可能性を余すことなく利用する一方で、人生や人間らさを破壊せず、一握りの人たちの奴隷になることもない社会を目指すべきだ。そのためには、すべての人が自分たちの生み出した機械の主人になるような社会を作るほかに道はない。

 

 だが、どうしてかそれができない。

 

 それは、機械や土地やオフィスや銀行を所有している、ほんの一握りの権力者たちが猛烈に反対するからだ。

 

 では、彼らを前にして、私たちはいったいどうすればいいのだろうか?

 

 

 

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 その答えは、本書に書いてある。

 本当のことを言うと、大切な大切なこの答えをうまくまとめることはできなかったからだ。本書の言葉を借りよう。

 

「民主主義はとんでもなくまずい統治状態だ。欠陥だらけで間違えやすく、非効率で腐敗しやすい。だが、他のどの形態よりもマシなのだ」

 

これはチャーチル大統領が演説で行った、有名なジョークだ。

 市場社会が生まれてから、私たちは、私たちを守るために、私たち以外を、犠牲にするようになってしまった。私たちの利益ばかりを追求するようになってしまった。この利益の追求の外側に追いやられたものたちは、声を上げることができない。それは、外国によって支配された植民地を皮切りに、利益の犠牲になった多くの人々、長い間、破壊され続ける環境資源、そして広がり続ける格差。これらの犠牲者である、声なきものを救うのは、「民主化」なのだ。平等な社会なのだ。

 

「自分の身の周りで、そして遥か遠い世界で、誰が誰に何をしているのか」

この問いを忘れないでほしい。これが筆者の思いだ。

 

つまりこう言うことだ。

 

私たちは探索をやめることはない

そしてすべての探索の終わりに

出発した場所に辿り着く

そのときはじめてその場所を知る

 

 

 

 

 

 

謝辞

 今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。このサイトでは要約や著者が心に残った部分を述べているので、より理解を深めてもらうためにも、是非、本書を手に取ってもらえたら幸いです。閲覧ありがとうございました。

 

参考文献 ヤニス • バルファキス 

 『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話』

 

マネジメントの文明史 -ピラミッドの建設からGAFAまで-


1月14日

 こんにちは。

 今回は、武藤泰明さん著の「マネジメントの文化史」という本を紹介したいと思います。本書は、ピラミッド誕生から十字軍、大航海時代からの産業革命、世界大戦を通して、企業や組織のあり方の変遷、歴史について、英国•ドイツ•米国の3つの国を中心に述べられています。

 この本を読むことで、それぞれの国のマネジメントの違いや資源の違い、また、人種が持つ価値観の違いから生まれた、ビジネスモデルの変遷を理解することができます。歴史は繰り返すというように、現在のビジネスモデルを彷彿とされるような時代の変遷を見てとることができます。ビジネスにおけるヒントは、意外と、すでに足元にあり、実は、見落としていたりするのかもしれません。

 とても読みやすく、入門としておすすめの一冊です。是非、ご一読を。

 

 

目次

Part I 会社以前

Part II 大航海時代と会社の成立

Part 3 英国ー産業革命の成立•発展•衰退

Part 4 ドイツー大企業と重工業の誕生

Part 5 個人によるイノベーションと非営利組織の時代

 

Part I 会社以前

 まず初めに、本書では、利益を求め事業を行う経営と定義づける。

 会社以前、ピラミッド誕生の時代についてのマネジメント史の話をしよう。この文でわかるように、ピラミッド誕生の時代では企業や経営という概念は存在しなかった。

 実際のところ、ピラミッドを作っていたのは奴隷ではなかったことが明らかになっている。労働者に対価を支払って、作らせたものである。しかし、これらの労働者は、主に農業を営んでおり、農業の閑散期の出稼ぎで来ていた労働者のようだ。

 つまり、ピラミッドを建設することで対価をもらっていたが、ピラミッドの建設自体は利益のためではない。つまり、現在でいう一種の公共工事と言える。そのため、この時代には経営というものは、まだ存在していなかった。

 では、どうして経営というものが生まれたのだろうか。その答えを一言で表すなら、「交易」である。当時は国という概念がなかったので、部族と考えよう。部族と部族で、生産できるものが異なっていたから「余剰」を交換し始め、これが今で言う、「分業」にあたる。

 はじめのうちは、結果的に残ったものを交換していたかもしれないが、次第に、「こんなものを作ったら相手が欲しがるだろう」と多めに作るようになった。そして、そこには分業と専門化が生じるようになっていた。

 しかし、生産者が多めに作って交換するだけだと大した事業規模にはならない。そこで大きな役割を果たしていたのが、専門の貿易商人のような人々だ。貿易商人というような専門家が存在することで、格段にやりとりがしやすくなり、交易の量が増え、関係する地域や部族も増えていった。

このようにして、経営の前身となるような仕組みが生まれていった。

 

Part II 大航海時代と会社の成立

 大航海時代になると「交易」つまり、経営という仕組みが徐々に現代に近づいていった。

 ここで一つ質問をしよう。世界で一番古い会社はなんだろうか?

 きっと多くの人が「東インド会社」と答えるのではないだろうか。しかし、実際には、東インド会社以前、16世紀にはすでに英国で「新しい土地への冒険商人会社」が設立されており、これを母体として、1555年には北極海航路で交易を行う「モスクワ会社」が設立されている。実は、東インド会社が設立する前から「会社」という枠組みが作られていたのだ。そしてここからは、最古で最大な「東インド会社」が生まれたは背景について以下、説明していく。

 まず、現在のように、海の情報がほとんどない大航海時代の、海路による東アジアや中南米との交易は、かなりリスクが高かった。その結果、商人たちは船の持ち分を分割したり、海路と従来のルート両方を使ったりすることでリスクテイクの量を減らした。そして、この前者が会社の仕組みにつながっていった。

 つまり、「会社はリスクテイクのための仕組み」なのだ。 

 もちろん、会社という「仕組み」が突然出現したわけではない。中世において、船の所有権や航海権が分割されていたこと、あるいは15世紀に前例となる組織図や会社がすでに存在していたことを背景にもち、その経験の延長線上に「東インド会社」が存在する。

 事実、植民地支配を広めていった欧州諸国は、王の力だけでは、植民地までもを管理、支配することは出来なかった。そのため、本国からの集権的に経営するのではなく、各植民地、各地域で分権した経営の形が取られるようになった。

 このように、国家に出資してもらうのでなく、地方の資産家たちが出資をし、万が一のための時のリスクテイクのために、商人は合同で交易を請け負った。こうしたリスク分散の仕組みが成功した結果、「会社」というものが成り立つようになっていった。

 

Part Ⅲ 英国ー産業革命の成立•発展•衰退

 パート3では、英国の産業革命の成立から発展、衰退までの変遷を紹介している。

 まず、当時の英国の特徴として、株式会社の設立が禁止されていた。株式会社とは、複数人の出資者が存在し、資金を持ち寄ってリスクを分散し、事業を行うことが会社である。しかし、この株式会社が禁止されていた。そうなれば、出資者=経営者=唯一の労働者の経営スタイルしかできない。そのため、リスクをとるような事業規模の拡大や成長は難しかった。そのため、イノベーションを起こすような大企業は存在しなかったのだ。では、産業革命の進展を後押ししたものは一体何だったのだろうか。

 

 答えは「植民地」であった。つまり、経営をするための市場や相手が存在したことである。その中でも当時の一番大きな英国の植民地は「インド」であった。

 大航海時代、オランダやスペインが圧倒的な力を持っていたために、英国は出遅れ、仕方なくインドを植民地化した。しかし、ここで運が味方したのだ。当時のインドは、現地に租税を払えるだけの産業の蓄積があったのだ。そのため、交易という経営が成り立り、結果として英国の産業革命につながっていった。

 

  このように産業革命を後押しした背景には、「植民地という巨大市場を持っていたこと」と、そのほかの要因として「機械化投資で生産コストがインドより優位になったこと」が存在する。これらによって、繊維、綿工業で絶対的な優位に立つことが出来、需要と供給が十分に成り立つ「交易」いわゆる「経営」を世界で成功させたのだ。

 では、なぜ機械化が進んだのだろうか。その答えは「高賃金」である。18世紀、英国は工場労働者が不足する事態になった。その結果、「賃金上昇」がおこった。植民地との交易で発展していた湾岸部は賃金が高かったため、その都市部に人手を持っていかれないように、農村部でも所得上昇が実現していた。こうして、足りなくなった人手を補うために、機会を投入するようになり、機械化が進んだ。しかし、突発的に機械化が起きたわけではない。事実、英国には、すでに工業がある程度発展していた。手工業の熟練労働が機械工業の発展の基礎となっている。

 この産業革命の機械化による低価格での大量生産が、他国との貿易に優位性をもたらし、英国は莫大な富を獲得した。

 しかし、当時の国家収支を見てみると、英国の富は実は製造業ではなく、貿易や金融保険、投資によって生み出されていた。もちろん、製造業に競争力があるから貿易、保険等のビジネスができたのだが、産業革命の背景で、このように富が生み出されていたから、現在まで続く英国の繁栄があるのだろう。

 

Part Ⅳ  ドイツー大企業と重工業の誕生

 ドイツには創業が19世紀の会社が9社残っている。日本はどうかというと、旧財閥による企業が8つ、現在も残っている。しかし、英国にはこの時代の企業が1社も残っていない。日本やドイツは第二次世界大戦の敗戦で財閥・大きな組織は解体されたが、それでも形態を変えながら長く続いている会社がいくつか存在する。これに対して、企業解体を経験していない英国に古い企業が残っていないのはなぜだろうか。ドイツも日本と同じく戦争に負けている。にもかかわらず歴史のある会社が残っている。これはなぜだろうか。

 

まず初めに、ドイツか経済発展した理由としては、

•英国よりも後発のために最新鋭の設備を投入でき生産性が高かったこと

•英国の同族経営やパートナーシップの経営ではなく、巨大であったこと

•これまでに存在しなかった化学産業ビジネスを生み出したこと

 が挙げられる。そして、このイノベーションのための資金を調達しリスクを補うことができる銀証併営の銀行の存在も大きかった。また、ドイツは、植民地をほとんど持っていなかったために、高収益の海外投資に資金が流出せずに国内企業に投資されたこともメリットだった。

 また、英国の技術を応用したイノベーションの発展について述べるなら、イノベーションが計画の主体が会社だけではなく、行政機構にまで広まっていたことが大きな要因だ。その一つが「大学」の存在だ。一定の知識を持つ人を集めて、組織的な管理下で研究に携わるという仕組みだ。そうすることで新しいことが起こる場所が目に見えるようになったのだ。そして、そこで行われたのが「巨大科学」だった。

ドイツは国として特に研究開発に力を入れていた。その結果、巨大科学でイノベーションを起こし続けたために、会社は水平統合垂直統合し、その後も大きくなり続けた。

 

 つまり、戦争に負けても大企業が残った答えは「大きすぎたから」だ。大きすぎて代わりがいなかったのだ。これは日本の旧財閥系でも同じことが言える。財閥は解体されたが、「こっぱみじん」にされたら残らない。でも、残った。というより、必要だから残された。

それが、謎の答えだ。

 

PartⅤ 米国ーマネジメントと経営者の創出

 まずはじめに、米国の植民地としての特殊性を紹介しよう。確認しておくと、欧州諸国の植民地は、米国以外は商人たちが作ったものだった。つまり、欧州人がやってきて、現地人を支配する。しかし、米国は「移民による植民地」であり、欧州からの入植者が町をつくっていったのだ。要するに、被支配階級がいなかった。たしかに、支配者は英国だったが、英国王の権威の下に支配が行われていたわけではなかったのだ。

 また、産業革命を遂げている英国の支配下にあったため、米国もその影響を受け発展を遂げていく。英国の機械技術を導入したことで、米国は木綿工業と毛織物工業が同時期に飛躍的に発展していった。

 そして、ここからがアメリカらしい経営の話だ。技術革新を遂げ、産業が盛んになった米国だが、商品の綿織物と毛織物には決定的な違いがあった。それは、毛織物のほうが原料な品質が多いことだ。当時の市場状況は、羊の品種改良を進めた欧州品はら高級品として扱われ、米国品は中流品であった。このような背景で、米国の経営者たちは、「フルライン化」という経営戦略をとった。高級品から低品質までの原材料毛を用意し、さまざまな品質と用途の毛織物を生産したのだ。そうすれば、原料毛価格の相場が変動してもリスクが分散できるからだ。当時の米国には、フルライン型を扱う商人と単一商品だけを取り扱う商人が存在した。しかし、相場が高騰した際や、景気が不安定な際に単一販売の商人は淘汰され、結果的にフルライン型が生き残ったのだ。

 そして面白いことは、これまでの歴史で、英国やドイツにはフルライン型の会社は存在しなかった。これらのことから、筆者は、英国は「発明家」ドイツは「職人、技術者」が産業革命を推進したのに対して、米国は「経営者」が後押したと述べている。

 

 米国のアイデアの素晴らしさに世界はいつも驚かされる。その実例を挙げるなら「ネジ」だ。19世紀、当時の米国は鉄鋼で優位性を持っていなかった。そんな背景から生まれたのが、鉄加工製品の量産だった。そして生まれたのが互換性部品だった。19世紀の欧州では、機械について極論を言えば一品生産。これに対して米国企業は、互換部品の量産。つまり、修理しやすい商品を提供し始めたのだ。一品生産であれば、メーカーに持ち込み、修理しなければならないところを、互換部品の商品を使用しているユーザーであれば、壊れた部品だけを取り寄せ、自分で取り替えることが可能になるのだ。つまり、互換部品の発明で、遠隔地にも販売することができるようになったのだ。その結果海外で販売、拡大することが出来、米国の組織は大企業へと成長していった。

 

また、この考えを活用し応用し生まれたのが、フランチャイズ方式だった。(例えば某大手ハンバーガーチェーンのフィッシュバーガーなどもいい例だ。フィッシュバーガーのフィッシュは、時期や土地によって異なっている。一つのサカナに絞るのではなく、互換性を持って商品開発することで、万が一の際のリスクをとっているのだ。)

 

 このように、地理的な広がりをもつ米国のビジネスモデルは海外展開にそのまま使うことができ、その後、飛躍的に世界に大きな影響を与える大国へとなっていった。

 想像できるように、水平統合で大きくなった会社は、次第に垂直統合を余儀なくされ、ますます会社の巨大化が進んだ。しかし、会社の巨大化(独占)は国民にきらわれ、国や州から制限されるようになった。その結果、巨大化した企業は多角化せざるを得なくなり、多角化していく中で、大きくなりすぎた組織をうまく運営するための、中間管理職やマネジメント、事業部制が生まれていった。

 

PartⅥ 個人によるイノベーションと非営利組織の時代

 

 このパートでは、「巨大科学」が生まれたことにって可能になった個人による、ローコストイノベーションと非営利組織の時代について述べられている。

 巨大科学科学の時代の会社とは、社員が負えないようなリスクをとってくれる主体だった。失敗しても給料は変わらない、その代わり成功してもメリットの多くは会社のものになっていた。しかし、PCを使ったイノベーションであれば、初期投資はないも同じ。その結果、今日の社会では、会社に所属する必要がなくなっている。

 また、非営利組織の時代も到来してきているようだ。つまり、イノベーションの関与を開放的なシステムにする「オフワーク•イノベーション」の台頭だ。ウェブで繋がっている人が好きな時間に好きなだけ、好きな分野で参加し、オフの時間にイノベーションを実現するというものだ。そもそもの非営利のとしては、病院や学校が挙げられる。そしてこれらのが、経済産業発展において大きな役割を果たすように、非営利組織の方が大衆が参加しやすく、受け入れられるやすく、拡大スピードが早いのだ。

 また、現代の非営利組織の成長例としてはウィキペディアリナックスが挙げられる。しかし、ここで忘れていけないのは、多様な人がウェブで繋がればいいという訳ではないことだ。オープン、すなわち、開放、拡張にせよ、核となる存在が必要不可欠であるのだ。

 

 そして、最後に大企業はイノベーションにどうかかわっていくのか、筆者の考えを紹介していく。人生100年時代を見据えて、最近は特に株式投資をする人が増えている。 初期投資を抑えて起業できるようになったこと、リスクの分散ができるようになったことなど株式会社の組織体制には大きなメリットが存在する。

 しかし、その一方で、株式投資に頼ることによる会社の自己資本比率の低下が見て取れる。そしてこの自己資本比率の低下は、会社を「脆弱」なものにしかねないという負の一面を持っているのだ。

 会社のCEOは株主のために行動することを第一にすると主張する。でも、本当の目的はどうだろうか? 事実、かなりの割合で年俸を自社株で受け取る約束になっている。そのため、利益を出して、配当し、自社株を買って株価を上げる。利益が出なければ株価が落ちないようにもっと自社株を買う。間違っても研究開発投資はしない。このような会社はイノベーションなど起こせるわけがないのだ。

 とはいえ、イノベーションの前向きな組織は存在する。そして、イノベーションを起こすための研究開発には、資金が必要だ。そして、株主に出資してもらわなければならない。しかし、イノベーションには、大きなリスクが存在する。自己の利益を追求する出資者であれば、リターンが確実でない投資先に進んで出資をするだろうか。

このように、四半期利益を求める投資家との間には深い溝が存在しているのは確かだ

 

では、なにがそれを埋めていくのか。

 一つ目の答えは「A &D 」つまり、イノベーションを起こした企業を買うのだ。新たなアイデアは、それだけでは巨大企業へと成長していくのは難しい。だから、大企業が、自社のイノベーションプールを少し外に拡大して、事業化し、イノベーションの効率を上げていくのだ。

 二つ目の答えがCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)つまり、大企業が自社の事業展開に必要となる可能性のあるベンチャービジネスに投資するのだ。

 もしベンチャー事業が成功すれば、大きなリターンをもたらす。仮に、本業へのリスクがゼロだとすれば、ベンチャー事業に投資をしたとしても、損失の最大値はイノベーションに出資した金額だけになる。つまり、リスクが大きくない。大企業はベンチャーに投資しやすいのだ。

 そしてこの大企業のCVCは、成功した起業家が少ない日本で、有効な手段となるのではないだろうか。

 

いずれにせよイノベーションを起こし続けるものが生き残るのだそれは、歴史が証明している。

 

 

 

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謝辞:今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。このサイトでは要約や著者が心に残った部分を述べているので、より理解を深めてもらうためにも、是非、本書を手に取ってもらえたら幸いです。閲覧ありがとうございました。

 

参考文献:武藤泰明(2020年 日経BP 日本経済新聞出版本部)『マネジメントの文明史ーピラミッドの建設からGAFAまで』

 

 

FACTFULNESS  ー10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣ー

 

12月28日

 

 今回は、ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランドによって著された『FACTFULNESS -10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣-』を要約、紹介していきたいと思います。

 

 皆さんは、世界人口のうち極度の貧困にある人口の割合は、過去20年で約半分になあり、世界の平均寿命は70歳を超えているという事実を知っていますか?

 また、5歳までになくなる子供の数は全体の44%から4%まで減少し、児童労働の数は28%から10%まで減少。さらに、核兵器の数は64千発から15千発まで減少しています。

 このように実際の世界は、どんどん良くなっているにもかかわらず、私たちはその事実を知りません。

 本書で様々なデータを基に、私たちが誤って認識している世界の現状を証明しています。著者も本書を通して、世界の現状と自身の認識の間には、大きな違いがあったのだと気づくことができました。このサイトを訪れてくださった皆様も、是非この衝撃に出会い、世界の真実を知っていただきたく思っています。

 

目次

第1章 分断本能       

第2章 ネガティブ本能    

第3章 直線本能       

第4章 恐怖本能第      

第5章 過大視本能      

第6章 パターン化本能

第7章 宿命本能

第8章 単純化本能

第9章 犯人捜し本能第      

第10章 焦り本能             

第11章 ファクトフルネスを実践しよう

 

第1章 分断本能

 筆者、ハンスは、人々が「世界は分断されているという大きな勘違いをしている」ということを嘆いている。ここでいう人々の「分断意識」とは先進国と途上国には大きな格差が存在しているという認識であり、先進国に住む「私たち」は、途上国の人々を「あの人たち」と分断して意識している。しかし、ハンスは、そもそも先進国と途上国で分けること自体が間違っていることを主張している。そこで本書では、世界を2つに分けるのではなく、所得レベルに応じて4つのグループに分けられている。そうすると、先進国は基本的に、レベル4にカテゴライズされるが、途上国はレベル123にカテゴライズされる。きっとこの時点で気づくだろう。発展国のカテゴライズ幅はとても広く実際には、レベル23、本書でいう、中間所得層の人々が全世界の75%もいるのだ。私たちが認識している「あの人たち」はもう「あの人たち」と分断するようなところにいないという事実が証明されている。そして同時に、このような誤認識をしないためのファクトフルネスが述べられている。

 

第2章 ネガティブ本能

 本書で問われている質問を紹介しよう。

次のうちあなたの考えに一番近い選択肢を選んでください。

A 世界はどんどん良くなっている

B 世界はどんどん悪くなっている

C 世界は良くなっても悪くなってもいない

 質問の回答の50%以上、トルコやベルギー、メキシコなどでは80%以上の人々が「B」世界はどんどん悪くなっていると答えた。だが正解は「A」世界はどんどん良くなっている。実際にデータを参照すると、世界人口のうち極度の貧困にある人口の割合は過去20年で約半分になあり、世界の平均寿命は70歳を超えている。また5歳までになくなる子供の数は全体の44%から4%まで減少した。一方、児童労働の数は28%から10%まで減少し、核兵器の数は64千発から15千発まで減少した。このように実際の世界はどんどん良くなっているにもかかわらず、私たちはその事実を知らない、というか信じない。このような思い込みの背景にあるネガティブ本能について第2章では述べられている。

 

第3章 直線本能

 第3章では「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込みに注目し、直線本能の存在を主張している。また質問をしよう。

15歳未満の子供は、現在世界に20憶人存在します。国連の予測によると2100年には、子供の人口は何人になるでしょう

A 40億人

B 30億人 

C 20億人

 回答はCの20億人だ。どうやらこの問題の一般人の正解率は26%だったらしい。ではなぜこのような誤差が真実と認識の間に生まれるのだろうか。その答えが直線本能である。これは目に見えない部分「線の続き」を直線で想像してしまうものだ。だが実際には世界人口は100億人から120億人ほどで落ち着くとされている。(詳しくは本書を読んでいただきたい)このように第3章では、人々の見えない部分への思い込みへの警告を鳴らしている。

 

第4章 恐怖本能

 2013年、東日本大震災が福島の原子力発電所を襲った。原発の近くに住んでいた人は避難したが、避難後1600人が亡くなった。原子力発電所の近くに住んでいたからという理由で、被爆したから亡くなったという誤認をしている人が多い。しかし、実際には亡くなった多くは高齢者で、避難の影響で体調が悪化したり、ストレスが積み重なったりで死亡した。事実原子力事故の被ばくで亡くなった人は一人もいない。つまり、命が奪われた原因は、被爆でなく、被爆を恐れての避難だったのだ。もちろん、放射線の被害が全くないという科学的根拠があるわけではない。放射能だけでない、子供向けのワクチンや感染症の予防接種など、事実に基づいた理解を広めるのは、とても難しい。悔しいことに、企業への規制不足のために悲惨な事故が起きてしまったトラウマは健在だ。

 このような背景から、筆者は、現実を見るということ、つまり、データや数を見て事実を基に判断する必要性を説いている。現在、年間30万人の人が「下痢」が原因で亡くなっている。だがマスメディアでは、未来の「巨大地震」や「テロ」最近では「同性愛」などを批判的に感傷的にばかり報道している。そして「下痢」が原因でこんなにも多くの人が亡くなっていることを報道しない。

 「恐怖」と「危険」は全く違う。恐ろしいことはリスクがあるように見えるだけだ。一方、危険なことには確実にリスクがある。未来の巨大地震、いつ襲われるかわからないテロ、さらなる少子化を招きかねない同性愛など、どれも「恐怖」にカテゴライズされる。このような「恐怖」を抱くことが悪いことではない。だが、恐怖本能が鈍らせることは忘れてはいけない。本当に危険なことを察知し、大切な人を守るためには、恐怖本能を抑えて、事実を見極めることだ。

 

第5章 過大視本能

 過大視本能には2種類の勘違いを生む。一つ目は、数字を見ただけで「なんて大きな数字なんだ」「なんて小さな数字なんだ」と勘違いしてしまうこと。そして2つ目は、一つの事例を重要視することだ。メディアは特に過大視本能に漬け込むのがうまい。様々な事件、事実、数字を実際よりも重要であるかのように伝えたがる。そのおかげで、「最低限の暮らしに必要なものが手に入る割合は何%か」という質問に対して多くの人が「世界人口の20%だけ」だという考えを持っている。正しい答えは80%だ。

 このような過大視本能を抑えるための方法は、やはり数字を比べることだ。身の回りにあるありふれた情報を鵜吞みにするのではなく、事実を捉え、比較する習慣を身に付けなければならない。

 

第6章 パターン化本能

 第6章では、「一つの例がすべてに当てはまる」という思い込みをする、パターン化本能の存在について述べている。ずいぶん前に述べた「世界は分断されている」という思い込みは「私たち」と「あの人たち」という勘違いを生む。だが、「私たち」が認識している「あの人たち」は今や大きな消費対象になっており、ビジネスチャンスがごろごろ潜んでいる。

 現在、世界の80%の人口がワクチンを受けることがっできる。これがどういうことかというと、十分なインフラが通っているということだ。ワクチンはずっと冷蔵されている必要がある。いわゆるコールドチェーンだ。基本的な交通インフラ、電力、教育、医療がすべてそろっていなければ。コールドチェーンは実現しない。このように想像以上に進んだ「今」が存在しているにも関わらず、人々の認識は20年、30年前のままだ。「途上国では、様々なものが不足し、多くの人が命を落としている」そのようなイメージではないだろうか? このような誤認は、人々のパターン化本能が関与している。この本能を抑えるためには、分類をすることが有効だ。自分と同じ集団と違う集団の相違点と共通点を見つけること、また、自分が決して基準ではないこと、例外が存在すること、強烈なインパクトに影響をうけやすいこと、を忘れないでほしい。

 

第7章 宿命本能

 宿命本能とは、もって生まれた宿命において、人や国や宗教や文化の行方は決まるという思い込みだ。この思い込みに従えば、第6章の間違った一般認識も、第1章の存在しない分断も「そういうことかあ」と正当化してしまうことになる。

 アフリカはこれからも貧しいままだし、それがアフリカの宿命なのだという意見をよく聞く。確かに、アフリカ大陸全体を見れば、他の大陸より遅れている。平均寿命も17歳低い65歳だ。だが、平均は誤解を生みやすいし、アフリカの中でも途方もない違いがある。例えば、チュニジアアルジェリア、エジプト、モロッコリビア、これらの五か国は、平均寿命を大きく上回っている。また、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国は、この60年の間に植民地から独立国になった。その過程でヨーロッパ諸国が、かつて奇跡の発展を遂げたのと同じ着実なスピードで、アフリカの国々も教育、電力、水道、衛生設備を拡充してきた。しかも、サハラ以南の50か国はいずれも、スウェーデンよりも速いペースで乳幼児の死亡率を改善させた。これは驚くべき進歩だ。このようにアフリカは著しく発展してきているにもかかわらず、宗教や文化が、成長を妨げているという誤認をされている。宗教も文化も少しづつ、一歩づつ、順応するために変化しているのだ。

 人々が持つ宿命本能を抑えるためには、積極的に知識をアップデートすることが有効だ。いろいろなものが変わらない様に見えるのは、変化がゆっくりと起きているからで、わずかな変化でも、積み重ねればおおきな進化となる。教科書で見た「あの世界」と現在はずいぶんと違っている。さあ知識をアップデートしよう。

 

第8章 単純化本能

 シンプルなものの見方に私たちは惹かれる。賢い考えがぱっと開くと興奮するし、わかった!理解できた!と感じるとれしい。このことを「単純化本能」という。しかし、この本能はにはちょっとした問題がある。それは、その単純化本能で、すべての問題を対処しようとしてしまうことだ。ここで一つの事例を紹介しよう。

 筆者はこの本の中で、健康と富のバブルチャートを載せている。すると、そのバブルチャートの中で、キューバが特殊な位置にいることが分かった。所得はアメリカの4分の1なのに子供の生存率はアメリカと同じくらい高いのだ。この事実を知ったキューバ厚生大臣は、「キューバは貧乏人の中で一番健康だ」と誇り高く発言した。しかし、違う角度からこの事実を見ると、「キューバは健康な国の中で一番貧乏」ということがわかる。さあ、ここからだ。世界には、所得が高い国ほど健康だというデータがある。そして私たちは、所得が高いから健康だと認識する。しかし、実際はどうだろうか。アメリカは最も豊かな国でありながら豊かな国の中で一番不健康だ。つまり、不健康な人が多いのは、所得が低いから、健康な人が多いから所得が高い、という単純な要因回路にはならないのだ。要するに、一つの視点だけでは、世界を図れないし、理解できないのだ。

 

第9章 犯人捜し本能

 ここでいう犯人捜し本能とは「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込みのことである。事実、これまでの様々な世界大戦や、現在の地球温暖化問題、これからの第4次産業革命による格差の拡大など、様々な問題の犯人捜しを、マスメディアでも書籍の中でも、私たちの中でも無意識に行っているのではないだろうか。だが前述したように解決策が単純でないように、犯人探しも限りなく困難で複雑だ。

(本書で様々な犯人捜しの事例が述べられているので是非読んでもらいたい)

そして、筆者は、これら犯人捜しの本能に対して責めることを止めるべきだと説いている。なぜなら、犯人を見つけたりたとたん、考えるのを止めてしまうからだ。ほとんどの場合、物事ははるかに複雑だ。だから、犯人よりもシステムに注目すべきである。世界を本当に理解し、変えたければ、現実の仕組みを理解することが必要だ。

 

第10章 焦り本能

 実は、著者自身にとって、この「焦り本能」を一番身近に感じた。焦り本能は、何かしらの「恐れ」を感じた際に発揮する。政府やマスメディアなどは、人々の関心を集めるこために、何か恐怖心をあおるような方法をとることが多い。(前述した貧困問題やテロ、巨大地震が下痢よりも大々的に取り上げられやすいように)

 事実、世界には、心配すべき5つのグローバルなリスクが存在する。①感染症の世界的な拡大 ②金融危機 ③第3次世界大戦 ④地球温暖化 ⑤極度の貧困だ。私たちは、何が一番深刻な問題かをわかっていれば安心できる。これら5つが今一番注力すべき問題だ。この問題に取り組むには、客観的で独立したデータが欠かせない。グローバルな協調とソースの提供も必要だ。小さな歩みを重ね、計測と評価を繰り返しながら進むしかない。「今すぐ決めなければならない」と焦り、過激で極端な行動をとるのではなく、問題の本質に注目し、どうしたら解決できるか考えよう。

 

第11章 ファクトフルネスを実践しよう

  著者は、本書を通して、人々がとんでもない誤認をしていることを指摘している。教育レベルの高い人も、世界中を飛び回っているビジネスマンも、また、ノーベル賞受賞者でさえ、事実に基づいて世界を見ることが出来ていないのだ。そして、その理由には、誰もが持っている「分断本能」「ネガティブ本能」「パターン化本能」「焦り本能」など10の本能にあった。そして、この10の本能を抑えなければ、事実に基づいて正しく世界を見ることが出来ないのだ。 

 また、事実に基づかない「真実」を鵜呑みにしないためには、情報だけでなく、自分自身を批判的に見る力が欠かせない。「この情報源を信頼して良いのか」と問う前に、「自分は自分を信頼していいのか」と問うべきなのだ。このセルフチェックに役立つのが、本書で紹介されている10の本能だ。

 とはいえ、自分自身を批判的に見ることを押し付けすぎてはいけない。必要なのは「自分が本能に支配されていた」と過ちを認められる空気をつくることだ。そのためにはお互いがお互いを許す心を持つことがとても大切であり、紹介した10の本能を抑え、事実に基づいて世界を見れば、世の中もそんなに悪くないと思えてくる。これからも世界を良くし続けるために私たちに何ができるかも、そこから見えていくだろう。

 

 

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 謝辞:今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。このサイトでは要約や著者が心に残った部分を述べているので、より理解を深めてもらうためにも、是非、本書を手に取ってもらえたら幸いです。閲覧ありがとうございました。

 

参考文献:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド(2020年 日経BP社)『FACTFULNESS -10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣-』

 

 

 

 

ポストコロナの経済学 ー8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきかー

2020年12月19日

 こんにちは。

 今回は、熊谷亮丸さん執筆の『ポストコロナの経済学』という本を紹介していこうと思います。本書では、ポストコロナの世界で想定される8つの構造変化について言及されており、ウィズコロナ・アフターコロナと呼ばれる世界で、日本経済はどのような事態に注意し、どのような方向に進むと良いのか、熊谷氏の意見を要約しています。

 コロナが終息するまでの現金給付は正しいのか。GOTOキャンペーンは進めるべきなのかまた、コロナが終息した次の時代に訪れる変化にはどんなことがあるのか。

 新しい時代を強く、賢く、順応して生きていくためにも、是非読んでいただきたい一冊です。

 

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ポストコロナの経済学

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目次

第1章 新型コロナショックにどう立ち向かうのか?

第2章 ポストコロナ時代の8つのグローバルな構造変化

第3章 日本の強みと弱みを検証する

第4章 ポストコロナ時代にわれわれはどう生きるか?

 

第1章 新型コロナショックにどう立ち向かうのか?

 新型コロナウイルスの与える社会経済への悪影響は、リーマンショックと比較してもかなり深刻であるのが事実だ。リーマンショックの場合、「カネ」が止まったのだが、新型コロナウイルスの場合、「ヒト」「モノ」が止まったからだ。また時間軸で見ても、リーマンショックの場合、海外の金融機関が衝撃を受け、それが景気に反映し、じわじわとしわ寄せが遅れてきたが、新型コロナウイルスの場合、非常にスピードが速い。また、感染拡大防止に向けた政府の経済活動の自粛で家計部門が大きな打撃をうけ、その影響で企業部門も深刻なダメージを受けている。ここで第1章で筆者は、新型コロナショックに立ち向かうために、以下の3ステージに分けた政府対策の必要性を述べている。

 第1ステージの政策では、感染拡大の防止に加えて、国民の生活保障に最大限注力する。具体的には現金給付だ。雇用を守り、中小企業を倒産させないため、雇用調整助成金の拡充や、本当に困っている中小企業の迅速な現金給付など、第1ステージでは、景気刺激策を打つのではなく、国民の不安除去に力を置くべきである。

 第2ステージの政策は、消費喚起政策だ。この政策は、感染拡大に一定の歯止めがかかった状況で講じるのが望ましい。この段階では、商品やクーポンなどを発行して、観光やレジャーなど打撃を受けた産業を振興し、国内観光や地方創生を促すキャンペーンなどの展開だ。

 第3のステージの政策では、今回の問題を奇貨として「攻め」の政策に取り組むことだ。具体的には、テレワークやオンライン診断、インターネット選挙の実現、など「ソサエティ5.0」を推進し、リモート社会を構築する。またサプライチェーンの再構築を進め、危機管理体制の強化やリスクの分散を図るべきである。

 この3つのステージの政府対策を通して、政府が「国民の生命と暮らしを守る」というメッセージを発信する必要があることを主張している。本書では、第3ステージに焦点を当てた、ポストコロナの世界での社会の在り方、政府の対応の在り方が述べられている。

 

第2章 ポストコロナ時代の8つのグローバルな構造変化

 ポストコロナ時代のグローバルな構造変化として、以下の8つが本書で述べられている。

 ①「グローバル資本主義」からSDGsを中心に据えた「ステークホルダー資本主義」への転換

②格差拡大を受けた、反グローバリズムナショナリズムの台頭のリスク

③米中対立が激化し、「資本主義VS共産主義」の最終戦争へ

④グローバル・サプライチェーンの再構築

不良債権問題が悪化し、潜在成長率が低下

⑥財政収支が軒並み悪化し、財政政策と金融政策が融合に向かう

⑦リモート社会が到来し、企業の「新陳代謝」が重要となる

⑧中央集権型から分散型ネットワークへの転換

詳しい内容は是非本書を手に取って読んでもらいたい。

 

第3章 日本の強みと弱みを検証する

 第1に、日本最大の強みは「共存共栄」の思想、自然との共生、遵法意識の高さなどに裏付けられた、安定的な社会が存在することだ。そして、この「社会の安定」は「サステイナビリティ」の高さという面での、我が国の優位性につながっている。それが「格差」「治安の良さ」というデータで明らかになっている。格差においてはG7諸国の中で最低で、著しく差が小さい。また、「治安の良さ」に関しても、日本は世界9位だ。

 第2に、日本人は勤勉、繊細である点も、大きな強みだ。勤勉で繊細な国民性を背景に、日本の「ものづくり」は高い技術レベルに支えられている。

 しかし、弱みとしては、強烈なリーダシップを嫌い、嫉妬深い国民性であること・付和雷同で熱しやすく、冷めやすいこと・論理的な思考力が弱く、情緒的であること・スピード感に乏しいこと・多様性が欠如していること・などが挙げられる。

 このような日本の強みと弱みの検証から考えられる今後我が国にとって最も重要なことは、諸外国の国民性を正確に理解したうえで「多様性」を受け入れて行動する寛容さだ。ポストコロナ時代に世界中で自国中心主義が蔓延する中で、異文化への寛容さを保ち続けることが大切である。

 

第4章 ポストコロナ時代にわれわれはどう生きるか?

  第4章では以下8つの指針が述べられている。

指針①多様性や選択の自由を尊重しつつ有事の緊急事態法整備

指針②労働市場の機能不全を解消、労働生産性を向上

指針③「SDGs大国宣言」を行い、国際社会での立ち位置を明確化

指針④感染症へのレジリエンスのある社会を構築する

指針⑤財政政策と金融政策の融合が進むなか、財政規律を維持する

指針⑥分散型ネットワークを構築し、地方創生に舵を切る

指針⑦企業は自らの存在意義を問い、抜本的な経営変革

指針⑧個人はリベラルアーツや経済、金融を学ぶ

 

   これらの指針について、本書では詳しく述べられている。ここで一つ一つ説明していくのも良いが、きっと表面的なものになってしまうので、是非、本書を手に取って課題解決のため、日本ができること、私たちができることへの理解を深めてもらいたい。確かに、これらの指針は政府や企業によって舵を切らないといけないようなものばかりだが、実際に方針の舵を切ることができるかは、日本国民一人一人なのだ。

 指針①のダイバーシティや選択の自由の尊重のためには、価値観が多様化する現代において、単線的な思考ではなく、複線的な思考を持たなければならない。このような多様性や選択の自由を尊重するためには、まず、あなたが所属する企業や組織において、自分の意思をはっきりと持ち、その意思(価値観)を共有する勇気を持つことから始まるだろう。

 また、指針④では、感染症を「制圧」するのではなく、「共存」するための政策をとり、「生命」と「経済」のバランスをとる必要性を説いている。このような社会を構築するためには、リモート社会の実現が必須だ。そんなリモート社会の実現で大きな課題となっているのが個人情報に関する問題だ。プライバシーを守りながら、命を守るためのビッグデータの活用が可能かどうかは、私たち個人の個人情報に対する意識の変化が必要不可欠である。

 このように指針①、指針④でも、一個人の役割の大きさが読み取れるが、指針⑦と指針⑧では、企業、個人への課題提起が明確に述べられている。ポストコロナ時代に向け、私たち日本人が「誇れる点」そして「変革するべき点」を再認識し、政府や企業が実行に移すこと、そして一個人が他人事ではなく、直面している事実を理解し、順応していくことで、日本経済は再び「不死鳥」のように復活していくだろう。

 

 謝辞:今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。このサイトでは要約や著者が心に残った部分を述べているので、より理解を深めてもらうためにも、是非、本書を手に取ってもらえたら幸いです。閲覧ありがとうございました。

 

参考文献:熊谷亮丸(2020年日経BP)『ポストコロナの経済学-8つの構造変化の中で日本人はどう生きるべきか?』

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第四次産業革命 ーダボス会議が予測する未来ー

 

2020年12月23日

 こんにちは。今回はクラウス・シュワブ氏によって著された『第四次産業革命ーダボス会議が予測する未来―』という本を紹介します。

 本書では、これからの第四次産業革命が及ぼす人類への恩恵と想定される危害について述べられています。第四次産業革命が進み技術革新の恩恵を受けることができる一方、この恩恵が平等に分配されるとは限らず、様々な面での格差という問題も発生しこれまで以上の貧富の格差の拡大が予想されている。このような正と負の一面を持った第四次産業革命の過渡期に生きる私たちにできることは何か、どうすればより良い未来が描けるのか、ダボス会議が予測する未来について前向きに述べられた一冊になっています。

 

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第四次産業革命

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目次

第1章 第四次産業革命とは何か

第2章 革命と推進力とメガトレンド

第3章 経済、ビジネス、国家と世界、社会、個人への影響

 

第1章 第四次産業革命とは何か

 まず、第四次産業とは、第1次、2次、3次産業に分類されない新しいタイプのもので「情報通信」「医療」「教育サービス」などのオートメーション化、データ化、デジタル化が挙げられる。第四次産業の特徴は、主に技術開発を中心とした産業であるため、物質やエネルギーの大量変化(消費)を伴わないという点だ。このような第四次産業が著しく発展し、大きな一つの産業と変革している状況を第四次産業革命という。

 第四次産業革命では、大きな利益がもたらされるが、それと同じくらい大きな問題が生じることが予測されている。特に懸念されるのが不平等の悪化である。なぜなら第四次産業革命での大きな受益者は、知的資本または物的資本の供給者であるイノベーターや株主となっており、労働に依存する人々と資本を有する人々の間に富の差が拡大しているのだ。このように、権力がごく少数の人に集中しないようにするには、協調的イノベーションをオープンなものにし、機会を広げることにより、デジタル・プラットホームの利点とリスクのバランスをとる必要性を述べている。

 

第2章 革命と推進力とメガトレンド

 第2章では、第四次産業革命の技術的な推進力も特徴として、物理的、デジタル、生物学的の三つに分分けて紹介されている。物理的なメガトレンドでは①自動運転車②3D プリンタ③先進ロボット工学④新素材だ。デジタルなメガトレンドはIOT、生物学的メガトレンドは遺伝子配列分析、合成生物学について述べられている。

 

第3章 経済、ビジネス、国家と世界、社会、個人への影響

  第3章で筆者は、第四次産業革命経済のルールは従来のものと異なると主張している。現在の構造的要因(過剰債務・高齢化社会)と体系的要因(プラットホームおよびオンデマンド経済の導入、限界費用の妥当性の増加)などの組み合わせは、これまでの経済学のシナリオとはかなり異なっている。

  また、変革期を迎えている第四次産業は、経済成長を推進し、私たち全員が直面している地球規模の大きな課題のいくつかを緩和させる可能性を秘めている。しかし、同時に私たちは第四次産業革命がもたらしえる悪影響、特に不平等、雇用、労働市場への悪影響を認識するだろう。そのような課題に真っ向からぶつからないために、現在の段階だからこそできる対処法を説明している。

 

 第四次産業革命は様々な変化をもたらすだろう。その範囲は、私たちの行いだけではなく、在り方にも影響を与えるだろう。プライバシーや所有の概念、キャリア形成、スキル開発などアイデンティティや関連する多くの側面に波及する。これまで技術は主に、物事を簡単に、早く、効率的な方法で行うことに寄与してきた。しかし、私たちは恩恵もリスクも多いことに気づき始めている。このような裏と表の顔を持つ第四次産業革命において、私たちの価値観の形成に大きな影響を与え、変化を受容する者と抵抗する者の二極化が進むと見込まれている。

 もちろん、第四次産業革命には様々なリスクが存在する。それは、第四次産業分野における素晴らしい開発が特定の利益のために利用されるということだ。このような事態が増えていくことで、前述したような不平等が生まれ格差が大きくなるだろう。そこで本書で紹介されているのが非営利のAI研究企業であるオープンAIである。この機関は、第四次産業革命がもたらす影響の一つである、新技術の融合を引き金とした、潜在力を秘めた者への力の付与の考えを具現化している。ちなみに、この組織の代表であるサム・アルトマンは『AIを進歩させる最善の方法は、個人に力を与え、人間を幸せにし、誰でも自由に利用可能にすることだ』と説いているらしい。

 第四次産業革命は様々な面で混乱をもたらすかもしれないが、その中で明らかにされる問題は私たちが生み出しているのものだ。つまり、これらの問題に取り組み、新たに出現する環境への適応に必要な変化や政策を実施し、繁栄できるかは私たち自身なのだ。素晴らしいことに、私たちは第四次産業革命の初期段階に生きている。そして、将来への道程に影響を与える力を持っている。

 

そんな私たちにできることは一体何だろうか

 

  それは、人間を中心に据えた社会を構想することだ。少数の利益のためのイノベーションではなく、すべての人の利益の構築を忘れてはいけない。さもなければ、第四次産業革命の負の面が浮き彫りになり、これまで私たちが重視していた、労働、コミュニティ、家族、アイデンティティを脅かしかねない。そうならないために、人々に人権を移譲し、すべての新技術は、人間が人間のために作り上げたツールであることを絶えづ自覚するべきである。すべてのイノベーションと技術の中心に人間性と公益性をもつことで、人々は共通の運命感に基づいた新たな集団的、道徳的意識へ到達することができるだろう。

 

 

謝辞:今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。このサイトでは要約や著者が心に残った部分を述べているので、より理解を深めてもらうためにも、是非、本書を手に取ってもらえたら幸いです。閲覧ありがとうございました。

 

参考文献:クラウス・シュワブ(2016年 日本経済新聞出版社)『第四次産業革命ーダボス会議が予測する未来ー』 

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カイジ「命より重い!」お金の話

2020年12月22日

こんにちは。今回は、2013年に出版された木暮太一氏の『カイジ「命より重い!」お金の話』という本を紹介します。学校の図書館で気になったので手に取った本なのですが、自身の「お金」における考え方や、捉え方が大きく変わった一冊だったので、この場で紹介したいと思います。そして、この記事を読んでくださった皆さんがもっと深く知りたいと思ってくださったら、是非、手に取ってみてください。

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カイジ「命より重い!」お金の話

目次

第1章 給料が少ない・・・・?現実を見ろ!

第2章 金は、自分で守らなければならないのだ!

第3章 知らないやつは、勝負の前に負けている!

第4章 圧倒的勝利を呼ぶ、マネー志向を身に着けろ!

終章 お金に振り回されないために、本当に必要な力

 

第1章 給料が少ない・・・・?現実を見ろ!

  数年前からワーキングプアという言葉をよく聞くようになった。ワーキングプアとは、正社員、あるいは正社員と同じくフルタイムで働いていても生活維持が困難とされる"貧困層”のことである。このような人は給料が少ないから貧困になってしまうのだろうか?具体的にお給料という部分に焦点を当てよう。これまでの日本企業では、”必要経費方式"+”一生保証型”で決まっていた。これは社員が労働者として生き続けるための経費を会社がお給料として支払っているという状況だ。この必要経費には、社員だけではなく家族(扶養)が生きていくために必要な経費も含まれている。そのため、年齢が上の先輩社員は、お給料が高くなる、年功序列型が主流となっているのだ。

 つまり、逆を返すと、”生活費が少なく済む”と思われている仕事は給料が安くなる。学生時代、月のお給料が10万しかなくても、ワーキングプアではなかったはずだ。これは、学生としての様々な恩恵を受けていたからだろう。また、親と同居している人であっても、月10万の生活でワーキングプアになることは考え難い。

 本章で述べたいことは、お給料が少ないと感じること、お金足りない背景にあることの本質をとらえる必要性だ。「生活費が足りない」というとき、自分の生活を振り返ってみるのはどうだろうか?ストレス発散や、周囲とのかかわりが欲しくてお金を使いすぎてしまったり、様々な事情でお給料が減ったにもかかわらず、かつての生活レベルを維持したくてお金を使いすぎてしまっていたりしないだろうか? 厳しいことを言うようだが、これらのような目的で使うお金はもらっていないのだ。これら全てがだめだといっているのではなく、きちんと現実と向き合い、ワーキングプアにならないためには、ワーキングプアから抜け出すためには、何が必要で何が最優先なのか、今そして未来を見据えた、見通しをしっかりとたて、改善意識を持つことが大切なのだ。

 

第2章 金は、自分で守らなければならないのだ!

 第2章では利子、借金、クレジットカードの利用におけるお金の使い方の警告をしている。例えば、お金を借りる際、年利12%(1か月物)と1日0.1%の利子、あなただったらどちらを選びだろうか?ぱっと見た感じ0.1%/日の方が割安で借りやすいと感じるだろう。しかし、0.1%を年利で計算すると、0.1%×365=36.5%となり、法律でも禁止されているほどの高金利だとわかる。金融機関だけでなく、借金の返済、クレジットカードの分割払いにも同じように、様々な罠(手数料・利子)が存在していることを理解し、十分に注意を払って、本当に借りるべきなのか、借りなくて済む方法はないのか、今の自分が将来の自分の首を絞めないのか今一度検討してもらいたい。それでも、どうしても借りなければいけないのなら、まずは身内に頼るべきである。身内であれば借りる理由を必ず聞かれるだろう。その際に、口を継ぐってしまうようなら再検討、受け入れられるものなら、きっと身内は無利子で貸してくれるだろう。ここでもやはり言えることは、お金がないから金融機関に助けを求めるのではなく、自分自身に問い、そして自分をよく知る人に相談するということだ。

 

第3章 知らないやつは、勝負の前に負けている!

 この章では、ギャンブルや儲かる投資などの甘い誘惑への警戒をしている。事実、“うまい話”は経済学的に、あり得ないのだ。この主張には2つの根拠がある。1つ目は、利潤低下の法則というものが存在し、最終的にリスクとリターンは釣り合うと経済学的に証明されているからだ。 仮に“うまい話”があったとする。例えば、顧客のニーズや市場を射止めた確実にヒットする「商品A」があるとする。そんな話があれば多くの人々は、その商品を仕入れ、販売したいと思うだろう。その後その商品は大ヒットした。大成功した企業もいるだろう。しかし、その状況が続くことはない。「商品A」を販売している人が1人なら客はその1人に集まる。しかし、売っている人が2人、3人と増えれば、売り上げは三分の一になる。このように、一人当たりの売り上げ&利潤は減っていき、そして最終的には「それだったら他の商売やるのと変わらないなあ」という所までになり、利潤率低下の法則が成り立つ。このことから2つ目の理由には、うまい話は他者に教えないということが分かる。他者が参入すれば、利益を独占できないからだ。このように、“うまい話“や”誘惑“には裏があることを肝に銘じてほしい。実際に話を持ち出されたら「なぜ相手は、その話をあなたに持ってきたのか」という点を考えるべきだ。

「リターンが大きいのはリスクも大きいから」これが経済学の大鉄則なのだ。

 

第4章 圧倒的勝利を呼ぶ、マネー志向を身に着けろ!

 お金をうまく活用し、圧倒的勝利になるためのマネー思考として、「サンクコスト」「機会費用」という目に見えないコストに目を向ける必要性がある。「サンクコスト」とはもう支払ってしまって、どう頑張っても帰ってこない費用のことである。例えば、食べ放題や映画など、体験する前に支払い、満足でも満足でなくても同じだけかかる費用のことを指す。 「機会費用」は、他のことが出来なかったために、損した額である。例えば、1日の予定で、映画を見に行くか、バイトをするかという天秤にかけた際、映画の場合1000円の損失、バイトの場合5000円のプラスになる。もし仮に映画を選択したとすると、映画第1000円分の損失だけではなく、働いて稼ぐはずだった5000円を足した6000円の損失をしている。これが「機会費用」の考え方である。このようにコストは目に見えるものだけではない。これらの考え方をうまく活用しなければ知らず知らずのうちに時間とお金を失ってしまうことに筆者は警告している。

 

そして、次に著者が本書で感銘を受けた「経済学で考える“正しいお金の使い方”」を紹介する。(本当に読んでもらいたい部分である)

経済学では、1円当たりの満足感が高いものを買うがベストなお金の使い方とされている。例えば、著者はクラシックカーが大好きだ。中でもロールスロイスが一番魅力的だ。そんなロールスロイスを一千万円で購入するとする。そして購入した際の満足度を100点とする。しかしある日、ロールスロイスを貸し出しているレンタカー会社を見つける10万/日であった。レンタルした際の満足度を70点とする。そして、これらの満足度を値段で割ると、

購入=100÷10,000,000=0.00001

レンタル=70÷100,000=0.0007

つまり、レンタルしたほうが1円当たりの満足度が高いことが分かる。事実、購入することは夢のまた夢と思っていた著者にとってうれしい選択肢を獲得した。もちろん、すべての商品の満足度を厳密に点数で表すことは現実的に難しい。しかし、経済学で正しいとされている考え方を気に留めておけば、「一円の重み」を忘れることなくお金を大切に使うことができるだろう。

 

終章 お金に振り回されないために、本当に必要な力

 今このブログを読んでいる皆さん、突然ですが、老後の生活への不安はあるだろうか? 事実、今日の日本では、じつに20代~40代の85%の人が「将来に経済多岐な不安を感じている」そうだ。特に20代は将来への備えとして、せっせと貯金をしているらしい。ここで、またもや数字にして考えてみよう。毎月3万ずつ貯金を30年間続けても、最終的に手元にある金額は、たった1080万だ。60歳に退職するとして考えてみても、この金額では、将来の安心は得られないだろう。 ここで筆者は、「お金」ではなく「働き続ける能力」を若いころから貯めるべきだと主張している。 一般人にとって、多少お金があっても将来の不安は消えない。経済的な安心感を得るためには「将来も働き続けるだろう」と自分で思うことが必要なのだ。ここでいう「働き続ける能力」とは専門性を高めて、一生くいっぱぐれない能力ではなく、時代に適応して、どんな仕事をしてでも生きていけるという自信を身につけることなのである。つまり、筆者が考える、お金に振り回されないために必要な力とは、「変化を怖がらない力」だ。将来への不安をかき消すのは、どんな時代になっても対応でき、ずっと働いていくためには、「変化を求める」という選択肢が不可欠であり、これからの多様化する社会を生きていく術になだろう。

 

謝辞:今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。是非、実際に本を手に取ってもらい、もっと理解を深めてもらえたら光栄です。

参考文献:木暮太一(2013 株式会社サンマーク出版)『カイジ「命より重い!」お金の話』

 

 

人は悪魔に熱狂する ―悪と欲望の行動経済学―

2020年12月14日

  こんにちは。今回は、松本健太郎氏によって綴られた「人は悪魔に熱狂するー悪と欲望の行動経済学-」という本を紹介します。

 本書では、人々が何かしら行動をする際に発生する無意識の領域に焦点を当てています。統計やデータでは表すことが出来ない消費者行動や、想定外市場の動向について紐解き、行動心理学の視点からビジネスを行うことの大切さが述べています。

 マーケティングに興味がある学生、市場調査に関わる何かを行っている方、にお勧めです。専門用語でない表現、わかりやすく砕かれた事例で述べられているので、わかりやすい一冊になっています。是非、ご一読を。

 

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人は悪魔に熱狂する―悪と欲望の行動経済学

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目次 

第1章 人は「強欲」な存在である

第2章 「怒り」が人を動かす

第3章 人は「怠惰」な動物である

第4章 言葉は人を騙す

第5章 嘘は真実より美しい

第6章 人は「矛盾」に満ちている

 

第1章 人は「強欲」な存在である

 本書では、ヒット商品には必ず”悪”の顔があると主張している。例えば、「食べ放題」が人気な背景には、人々の欲望を満たす様々なものが備わっているからである。和やかな雰囲気に囲まれ自分の食べたいものだけを何度も食べられるので、幸せな気持ちになる。それに周囲を見渡しても、他のお客さんも同じように幸せそうに見えるという「気分一致効果」が生まれ、「自己と他社の双方の欲望」満たされる。このような幸福感を味わうために「食べ放題」に足を運ぶのは理解できよう。また、元を取ろうとする行動が多くみられる。これは「サンクコストの誤謬」である。自分が投資したコストのうち、撤退・中止しても戻ってこない分を指しており、サンクコストの誤謬を小さくするために人々は元を取ろうという「欲望」が生まれ、苦しくなるまで食べてしまうのだ。

 また、吉野家を復活させた「悪魔のメニューである超特盛」も人々の強欲さをうまく活用している。並盛2つ分の重量なのだが、値段を比較すると、超特盛を注文するより、並盛2つの方が安いのだ。それでも超特盛がバカ売れする理由には、人々の「純粋に並盛2つを注文することが恥ずかしいが、たくさん食べたい」という欲望が働くからである。このように人々の行動には様々な種類の「欲望」が含まれている。そして、この心理的効果は理論やデータ・統計で表すことが難しい。そのような人々の「欲望」の存在をこの章では伝えている。

 

第2章 「怒り」が人を動かす

 第2章では、「怒り」が人々の行動を後押しするということを述べている。例えば東京医科大学の「入試において女子を一律で減点していた」という事実が判明した際、「男女差別」というワードが世間の怒りをかった。大学入試の結果において不適切な得点調整が行われていたり、また、女子学生の割合を3割以下に抑えるなどの処置をとっていた大学が計10校明らかになった。しかし、当事者である医師の反応を見ると「やむを得ない」という反応が65%もあったのだ。その最大の理由として、「女性医師の離職問題」が挙げられていた。事実、医師という国家資格保有者の数には限度があり、転職市場からの欠員補充をするのは難しい。そんな、限られた定員の中で離職率の低い男性医師を重宝するのは理解できる。だが、それを理由に入試の不正操作を行ってよいのだろうか。

 平均的な医師の勤務時間を見ると、いわゆる過労死ライン(月80時間の残業)を超えて勤務している医師は女性では17.3%男性では27.2%もいる。この長時間勤務の最大の理由が「人手不足」なのだ。つまり、女性医師の産休・育休が現場で敬遠されるのには、「医師の人手不足」問題がまず大前提として存在しているのだ。この事実を理解すると、問題を解決するためには「女子学生を減点して男性医師を増やす」という結論にはならず、医師の絶対数を増やし、業務効率によって無駄な作業を省いていくべきなのだ。問題の表面だけを解決し、根本の問題をねじ伏せているのは様々な分野でも存在するだろう。

 しかし、このような事実が明らかになり、人々の矛盾に対する「怒り」という意思表示こそが、無意識のうちに作り上げられた、偏り間違った考え方の存在を気づかせ、長年の積弊を変えていく巨大なパワーを生み出していくきっかけになるのだ。

 

第3章 人は「怠惰」な動物である

 人間には「サボりたい」というダークサイドを持っている。例えば3種の神器が大ヒットした背景には「利便性」という一面が大きく関係している。技術革新のすべてが当てはまるわけではないが、「怠惰」はイノベーションを大きく後押ししている。IT化が進んでいることも、テレワークが進んでいることも、家事のアウトソーシングが進んでいることも、作業の効率化という人間の怠惰な部分を補うものであるといえよう。このような人間の心理は少なからず、消費行動に反映されているのだ。

 

第4章 言葉は人を騙す

 今日、「SDGs」という言葉がブームになっている。多くの投資家もSDGsに力を入れている企業に投資してきている傾向が見られる。しかし、現実はどうだろうか。世界経済フォーラムによれば「SDGs」という言葉を聞いたことがある割合は49%と28か国中最下位で、よく知っていると答えた人はわずか8%と同じく28か国中最下位だった。数字を見る限り、日本の一般消費者の間で「SDGs」が盛り上がっているとは言い難い。このように、「SDGs」のような、深刻な世界の問題を解決するための素晴らしいテーマであっても人々の行動につながらないのが現実である。

 その背景を紐解くのが行動経済学である。人は「理論」だけでなく「感情」と「心」を動かされなければ行動にうつさないのだ。つまり、この章で述べられているのは、「言葉」や「スローガン」は人々の「心」や「感情」を強く揺さぶる「極論」の存在だ。その代表例が「炎上」や「煽り」だ。特に情報に弱い人々はこれらの煽り文句をうのみにしてしまう傾向が高い。要するに、物事の本質をとらえ客観的に判断しなければ、根も葉もない情報に翻弄されてしまうだろう。

 

第5章 嘘は真実より美しい

 嘘は真実よりも美しいという言葉の背景には、「信じたいもの」を信じ込みやすい人々の心理が大きくかかわっている。例えば「血液クレンジング」や「水素水」「EM菌」「マイナスイオン」など効果が検証できないものや科学的に根拠がないものが世の中にはまだまだたくさん存在している。科学的根拠のないこれらの商品であっても、使用する人々の思い込みや、偶然が重なったために引き起こした結果が、商品価値を生み出しているのだ。つまり、第5章では、「物事の一面しかとらえずに判断してはいけない」ということだ。正しいか間違いか、いいか悪いかという単純な判断基準だけでなく、物事の背景にある「根拠」「価値の存在」をも判断軸にしていかなければ、偏った物事の判断基準をもってしまうということを警告している。

 

第6章 人は「矛盾」に満ちている

 この章で述べられている「矛盾」は「感情」と「勘定」の矛盾である。例えば、新型コロナウイルスが引き起こしている現状を例に挙げるとわかりやすい。新型コロナウイルスに感染したくないという「感情」意識がある中、経済を回さないと自分たちの首を絞めるという「勘定」意識が存在していたり、また、「人の命のため」という大義名分によって人種差別が正当化されたり、「デマの拡散をふせぎたい」という「善意」によって逆にデマが拡散したりなど、今回のコロナウイルスの影響をうけて、人間の二面性が曝け出された。

 つまり、筆者は本書全体で、人間を理屈や損得勘定だけで判断してはいけないということを主張している。つまり、人間は「勘定」と「感情」の2つをもとに行動しており、これらの2つが矛盾が「悪」と「欲望」を生み出し、損得・善悪だけでは人々の行動は測れないのだ。

 

まとめると

このような人間の「煩悩」や「悪」「欲望」「矛盾」の存在を本書では述べてある。

 

参考文献

松本健太郎 (2020 毎日新聞出版)『人は悪魔に熱狂するー悪と欲望の行動経済学―』 

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