【むこう岸】 安田夏奈

11月23日

今回は第59回日本児童文学者協会賞を獲得した

「むこう岸」という子どもの貧困を物語で伝えた一冊を紹介します。

 

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むこう岸

「父が亡くなり、生活保護を受けながら鬱病の母のかわりに妹の面倒を見て家事をしている女の子」と 「医者の息子という期待を一身に背負いながら有名私立中学で落ちこぼれて公立中学校に転校してきた男の子」の異世界で生きる2人が、偶然にも人生の交差点で出会い、本来なら知ることもなかったその世界での、悩みや不安をぶつけ合い、葛藤しあい、そしてお互いの未来を自分たちの手で開いていくという物語。

 

少女は、生活保護を受けているために、小学生時代にはいじめを受け、地域の住民の白い目にさらされ、生活支援を受けることに「はずかしさ」を感じ「いけないことをしているのではないか」と自分自身をふさぎ込んでいた。そして、いつの間にか将来の目標をも見失っていた。

 

少年は、幼いころから両親の英才教育を受け他の子よりも勉強が得意だった。

そんな中、猛勉強の末に有名私立中学校に進学した。

だが、中学校では真に賢い、勉強しなくてもできるような学生ばかりであっという間に落ちこぼれてしまい、転校を余儀なくされ、少女が通う中学校に転入した。

 

そんな異世界で暮らす二人がカフェ「居場所」での日々を通して、かけ離れていたお互いの世界を共有し、悩みや葛藤を知り、二人はそれまで覗いたこともなかった新たな世界の扉を開いていく。

そんな新世界との遭遇の中で、「今の自分にできることは何か」「自分自身の価値とは」という大きなテーマを見つけ前に進もうと成長し、お互いの生きる道をひらいていく。

 

 

【感想】

 前の投稿でも述べているが著者は沖縄在住4年目だ。

そして、この沖縄県はとても貧困率が高く、生活保護をうけている世帯も多い。

そんな地域でゲームセンターのアルバイトをしている。ゲームセンターには様々な人が遊びにやってくる。自営業で成功した家庭の豪遊兄弟。ほぼ毎晩通う一見普通に見える4人家族。腰を曲げてふらつきながら遊びに来る80代のおばあ。障害を抱えている子供を連れた夫婦。そして生活保護をうけている中年カップル。

 

ある日、中年カップルがゲームセンターのアプリをダウンロードしてほしいとお願いされた。するとさっそく壁にぶつかる。どうやらクレジットカードが分からなかったらしい。丁寧に説明すると、カードはもっていなかったようだ。携帯料金の支払いと合算にて払うことにした。だがまたすぐに壁にぶち当たる。どうやらこの支払方法が理解できないらしい。

 

自身はあきれてしまい、携帯会社に聴いてほしいと店舗へ足を運ぶことを進めてしまった。そういうと、彼らは恥ずかしそうな表情をし、「もう大丈夫です」と帰っていった。その時に悟った、「私はあの人たちの自尊心を傷つけてしまった」と。

きっと彼らは携帯会社に足を運ばないだろう。

そして、新しいことを学ぶ機会を失ってしまうだろう。

 

この本を読んで、人は支えながら生きているということを再確認した。

できないことを人に頼って何が悪いのか。私だって人に頼って生きているじゃないか。

だからせめて、私ができることは私がしないといけない。

私自身のためではなく誰かのために頑張ったっていいんじゃないか。

 

そして決心した。

「自分ができること」「自分の価値」を改めて見つめ、

今の私ができる「学び」を一生懸命続けていきたい。